現場で機器が誤動作するというトラブルはよくあることです。その原因は電源ラインのコモンモードノイズであったり、ノーマルモードノイズであったり、または電源変動であったりしますが、初動対応として、まずは現場で電源ラインの波形を取得し、その波形を眺めながら、誤動作の原因を探ります。しかし現象が間欠的であったり、不規則であったりして、その場で原因の特定、対策ができないことが往々にしてあります。
そういった時、「現場で取得した電圧波形のデータを持ち帰り、それと同じ波形を交流電源で発生させ、機器の誤動作の再現をさせたい」というケースがあるかと思います。
そこで、現場で取得した電源電圧波形を当社の交流電源(PCR-LEシリーズ)で再現する方法についてご紹介します。なお、ここでは三相交流についてご紹介していますが、単相、単相三線についても対応する相数が減るだけで、ほぼ同様に行うことができます。
1.PCR-LEシリーズの交流発生システム原理
PCR-LEシリーズは交流電源であると同時に、内部に任意波形発生装置を内蔵した電源ラインシミュレータです。従って商用系統電源を模擬したり、自由な電源波形を作成することができます。内蔵の任意波形発生装置の波形発生システムは(図1)の様に64個の波形バンクを持っていて、各波形バンクには1サイクル分の波形データが保存されています。その波形データを選択し、設定した周波数で繰り返しデジタル/アナログ変換することにより交流電圧を発生しています。波形バンクはデフォルトでは波形バンク0(サイン波)を使用し、サイン波の交流電圧を発生しています。任意波形を発生させる場合は他の63個の波形バンクに任意に定義した波形(任意波形)を書き込むことができ、任意の波形バンクを指定して実行させることで、PCR-LEシリーズにいろいろな波形を発生させることができます。
三相システムでは各相(U、V、W)が同じ波形発生システムを持つことになります。従って任意波形を発生させるには各相の波形バンクに波形を書き込む必要があります。ここでは現場で取得した電圧波形を波形バンクに保存し、PCR-LEシリーズ(交流電源)でその波形を出力することにより、「現場で取得した交流電圧波形」をPCR-LEシリーズで再現します。
2.準備
波形再生には以下の設備等が必要になります。
- シーケンス作成・制御ソフトウェア Wavy for PCR-LE(SD011-PCR-LE:菊水電子製)※1
- エクセル(マイクロソフト社)
- PCR-LEシリーズ(菊水電子製)を3台使用した三相システム※2
- 取得した波形データ(各相電圧の波形)
- パソコン
※1:SD012-PCR-LE、SD019-PCR-LE、SD020-PCR-LEのいずれかでも対応可
※2:マルチ出力モデルPCR-LE2シリーズでも対応可
3.取得する電圧波形の条件
波形データをCSV形式で保存できるオシロスコープを使ってデータを取得・記録します。なおPCR-LEシリーズの出力の接続はY結線です。線間電圧は各相電圧の合成になりますので、必ず各相電圧の波形を取得してください。線間電圧を取得しても波形の再生はできませんのでご注意ください。また、オシロスコープで取得するデータ数は1万ポイント以内である必要があります。データレコード長を必ず確認してからデータ取得をしてください。もし1万ポイントを超えるレコード長で取得してしまった場合は別ツール(オシロスコープのユーティリティソフト等)で1万ポイント以内にデータを圧縮してください。
4.現場で取得した電圧波形を波形バンクに保存する
(図2)の手順に従って、現場で取得した電圧波形を波形バンクに保存します。
(1)取得した波形データをWavy for PCR-LEで読み込み可能なデータに変換する
(図3)の様に、取得したオシロスコープのCSVデータには不要な情報が入っています。エクセルを使用し、それらを取り除き(図4)のように必要なデータだけに変換し、「***.csv」として保存します。
(2)データをWavy for PCR-LEで読み込み、波形バンクに保存可能な任意波形データにスケーリングする
- (手順1)Wavy for PCR-LEを立ち上げます。
- (手順2)[シーケンス > 任意波形の作成・編集(A)]で任意波形のウインドウを表示します。
- (手順3)任意波形の種類の「任意」を選択します。
- (手順4)[読み込み]をクリックし、先ほど保存したデータ(***.csv)を指定し読み込みます。
- (手順5)テキストデータの変換ウインドウが現れますので、1サイクル分の必要なデータの開始位置、終了位置を指定し[変換]をクリック。完了後、[戻る]をクリックすると任意波形画面に戻ります。これにより1サイクル分の必要なデータが切り出され、縦横ともスケーリングが変更された波形バンクに保存可能な任意波形がウインドウに現れます。
(3)作成した任意波形データを保存する
任意波形ウインドウ上部の保存で「***.arb」ファイルとして保存します。なお保存先のデフォルトは[ツール > 環境設定 ]の最下部の「任意波形保存フォルダ」がデフォルトで設定されていますが、そこでディレクトリの変更も可能です。
(4)作成した任意波形データをPCR-LE波形バンクに転送する
任意波形ウインドウの波形バンクの項で送り先の波形No.(波形バンク番号)、送り先の相を指定し転送をクリックします。三相の場合は同じ波形No.(波形バンク番号)に各相ごとの波形を各相ごと送ります。従って3回転送することになります(図5)。送った波形は[表示 > 波形ビュー > 波形イメージ]で確認できます。
5.波形バンクに保存した波形をPCR-LEシリーズから出力する
現場で取得した三相交流電圧波形を、交流電源PCR-LEシリーズで再現するシステムの構成図が(図6)です。
実際に保存した波形バンクデータを用い目的の波形を発生させるにはWavy for PCR-LEの[ツール > 直接制御]を選びます。そこで電圧、周波数などを指定し出力します。この直接制御ウインドウではではさらに位相角の設定、各相の電圧、電流、電力等のモニタも行うことができます(図7)。
(図8)に実際に現場で取得した波形データを元に、PCR-LEシリーズで波形を再現させた例を示します。ここでは線間電圧を示しています。
菊水電子では 交流電源 PCR-LEシリーズ以外にも、このような「実波形シミュレーション」を行える製品として、高速バイポーラ電源PBZシリーズや、電子負荷装置PLZ-5Wシリーズなどがあります。いずれの製品も同様な手順で、現場のでデータを取得→再現という使い方が可能です。ご興味あれば貸し出し用デモ機もございますので、当社営業までご相談いただければと思います。