精度と応答性に優れた交流の大電流ソースを実現。
電力用のセンサ製造やブレーカ検査のタクトタイム問題を解消。
交流の大電流センサ較正
定電流出力の交流電源は珍しいですね
ご承知のとおり、一般に言う交流安定化電源というのは負荷の大小に係わらず出力電圧が一定となる定電圧源です。これに対して本システムは同じ交流出力ですが、負荷に係わらず出力の電流量が一定の(設定した)値となるように動作、しかも500Aを越える大電流、パワー的には10kW超も出力可能な交流のハイパワー定電流源です。
システムのターゲットは電力関連で、ブレーカやカレントトランスなど電流感応機器の動作検証や感度較正ソリューションです。設定した大きさの電流を素早く正確に出力しますので、交流大電流の標準器や較正器としてお使い頂くことを想定しています。
電力機器の大電流・高精度化
システムが必要とされるようになった背景は
背景として言えるもののひとつは、ビルや工場などにおけるエネルギー利用のスマート化です。一般家庭以外でもビルや工場など各所でエネルギーのスマート化というか、電力管理が高度化していますよね。それを受けて電流センサやブレーカの需要が拡大しメーカさんは生産を急いでいる、というのが具体的背景です。
もう少し詳しくお話ししますと、最近の電力需要設備ではスマート化を進めるうえで測定精度アップと信頼性強化が求められている。ことに近年では数百アンペアクラスの大電流の部分まで要求が及んできているようなんですね。
この場合、カギとなるのは電流センサやブレーカなど電流検出アイテムの精度ですから、ブレーカや電流センサメーカさんは大電流で高精度な製品の大量供給を迫られている。それで、生産に際して動作試験や感度較正のための設備が必要なわけですが、お話ししたような事情で、新たなトレンドに対応したキャリブレータというか交流の定電流源が必要になってきたわけです。
ところが、市場には交流の大電流を精度良く出せる電流源が無いんです。小電流なら無くも無いのですが、数百アンペアとかは出せない。反対に大電流を出せても設定した電流を正確に出せない。仕方が無いので別途較正された電流計でモニタしながら電源を調整しなければならなかったりで生産効率が上がらない。ということでお客様は困っておられました。実際、ブレーカメーカさんからご相談をいただいたのが本システム開発のきっかけなんです。
ポンポン変えてもスパッと応答
電流検出機器特有の要求事項はありましたか
実はお客様とお話をさせて頂いた中で見えてきた要求事項がもうひとつありました。それは応答性というか電流を設定してから出力が落ち着くまでのセトリング(settling)ですね、整定時間の短縮です。
実際の校正作業では幾つもの電流値を段階的に与えていって、直線性などを含めたトータルな電流検出特性を測定します。したがって効率の良い校正作業には、電流値をポンポンと変えていったときに電流が短時間でスパッと設定値に落ち着くことが不可欠なんです。これが悪いと1個当たりの試験時間、作業効率というか生産のタクトタイムに大きく響いてしまうからです。お客様からすると既存の電流源では応答性・整定性が悪く、切り換えの都度、出力が落ち着くまで暫く待たなければならないという問題も抱えていたんです。
定電圧を定電流に変える魔法
どのような仕組みで定電流を実現しているのですか
本システムは、既存の定電圧型交流電源にトランスを付加して出力範囲を大電流定電圧のエリアに変換したうえで、トランスの出力電流を検出して元の電源にフィードバック(負帰還)することで定電流を実現しています。
基本的にはアンプ方式ですのでアンプと信号源で全体のパワーや精度が決まります。そこで、ベースとなる交流電源には当社の主力交流電源PCR-LEを採用し、一部を改造するかたちで開発を進めました。
開発は10kWで800A、2レンジのシステムから着手しましたが、ベースがPCR-LEですので、容量はいろいろ選べます。そのままでも600A、30V、18kVAまでいけますし、もっと大きな電流も可能です。
最適化への道程
機能実現のために苦労した点は
本システムは当社としてもこれまで手掛けたことのない方式でしたので、例えば応答性に優れ安定したフィードバックを実現するための回路設計には時間と労力を要しました。トランスの特性や電流センサの感度など不確定性を持つ複数のパラメータが系の安定度に大きく影響するんです。出力線の引き回し長などお客様側・負荷側の条件による違いも吸収できなければいけませんし難しい部分でした。性能を確認するために長い時間試作機と付きっきり、条件を変えてまた検証を繰り返すといった苦労もありましたが、最終的には様々な条件に対して最適な定数を決定する技術をマスターできました。
精度と使いやすさへの配慮
技術を形にするうえでの苦労はありましたか
レンジ内でのダイナミックレンジの確保なんかも意外と難問でした。先にもお話ししたように、お客様は電流の大きさを様々に切り替えて使うことが予想されます。これに対しては電流レンジを複数にして対処すればいいのかもしれませんが、お客様は電流を段階的に与えて測定することが多いでしょうから、ひとつのレンジ内においてできるだけ幅広く精度を確保することが望まれます。ですが、レンジの下の方では相対的にノイズの影響等を大きく受けますから、較正器精度のピュアな出力を得るのは意外と難しいんです。
あと、細かい話になりますが、電流の設定をどのように行うかということも悩んだ部分でした。本システムはPCR-LEをベースにしましたので、PCRの出力電圧設定が出力の電流値に反映されます。そこで、設定電圧を設定電流に読み替える変換係数をどうするか、逆に言えばどうすれば使い易さと精度を同時に満たせるかといった部分でPCR側の電圧レンジや電流センサの感度や確度も含めて試行錯誤しました。
新技術の開拓
開発を終えて今後をどう見通していますか
実は、原理としてはトランスを外付けしたCV(定電圧)電源を使ってCC(定電流)電源を作るというところまでなら誰にも考えつくことなんです。ですが、実際に行われる例は少なく、当社にとっても未開拓の技術でした。キクスイとしては定電流の交流電源という製品ジャンルがひとつ増え、お客様に対しても新しい風を吹き込めたことになり、少しは貢献できたのではないかと思っています。開発中はどうしても特性が出ず煮詰まってしまったこともありました。そうしたときは一から出直すつもりで問題をチェックしてひとつひとつ潰して解決の糸口を掴んでゆきました。
今後の見通しとしては、もっと大電流の要求も出てくると思います。既に2000Aを超えるお話しもいただいたりしています。