機器メーカーとしては、「取扱説明書の通りにお使いください」というのが建前です。というか本筋です。しかし、汎用製品の際たるものである直流電源の実際の使われ方は、実に様々で、取扱説明書でそれを網羅することはほぼ不可能です。そ […]

コラム

直流電源なるほどガッテン(1)

掲載日-2017年2月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

機器メーカーとしては、「取扱説明書の通りにお使いください」というのが建前です。というか本筋です。しかし、汎用製品の際たるものである直流電源の実際の使われ方は、実に様々で、取扱説明書でそれを網羅することはほぼ不可能です。そこでこの「直流電源なるほどガッテン」では、取扱説明書には記述がないのだけれども、(使用上安全な範囲で)工夫次第でこういった使い方もできますよ、という「裏ワザ的な手法」や「豆知識」をご紹介して参ります。ご参考になりましたら「ガッテン」のほどを、よろしくお願いいたします(笑)。

バイポーラ電源の動作モードは択一

さて今回は、キクスイのバイポーラ電源PBZシリーズという製品についてです。バイポーラ電源とは+、-両極性を出力端子の切り換えなしに、連続的に0を通過して、どちらへも可変できる直流安定化電源です。従って、いわゆる4象限動作対応(図1)となりますので、電力を供給(ソース)するだけでなく、電子負荷のように吸収(シンク)することができます。
こういった電源の極性切り替えを必要とする代表的な電子部品としては、モーターや電磁石(ソレノイド)がありますが、充電と放電をおこなう二次電池の試験装置として利用することもできます。

ここでひとつ注意点があります。ニッカド電池やニッケル水素電池は「定電流充電」なのですが、リチウムイオン電池においては「定電流・定電圧充電」という充電をおこないます(図2)。
キクスイの直流電源のほとんどは、定電流(CC)、定電圧(CV)自動移行型制御ですので、定電流で充電して、電池電圧が規格値(直流電源の設定電圧値)に達したら、自動で定電圧に移行するといった動作が可能です。
しかしながら、バイポーラ電源PBZシリーズは、定電流(CC)、定電圧(CV)の制御切り替えは自動移行型ではなく、予め制御モードを設定する必要があります(モード択一)。そのため通常の使用法ではバッテリの定電流・定電圧充電が行えません。

そこで、やや裏技的な手法になりますが、PBZシリーズの保護機能である「V/I-LIMIT」を応用して、バッテリの定電流・定電圧充電をおこなう方法を紹介したいと思います。

充電方法

PBZシリーズを使用してバッテリの定電流・定電圧充電を行うには、保護機能である電圧制限機能(V-LIMIT)と電流制限機能(I-LIMIT)を使用した下記2つの方法が考えられます。

(1)CCモード設定し、定電流制御(CC)により充電電流を制御し、電圧制限機能(V-LIMIT)を使用して充電電圧を制御する。

(2)CVモード設定し、電流制限機能(I-LIMIT)により充電電流を制御し、定電圧制御(CV)を使用して充電電圧を制御する。

理屈のみで考えれば、どちらも同じことになりそうですが、この2つの方法について、実験して出力電流波形を測定・比較してみました。

出力電流制御実験

この実験の設備は以下の通りです(図3)。GPIB通信により、シーケンス作成・制御ソフト「Wavy for PBZ」の直接制御、保護機能設定を使用して制御しました。

【波形測定結果】

●充電方法(1)CCモード、V-LIMIT制御
<測定条件>
CCモード設定(I-LIMIT設定は工場出荷時設定(22A))、V-LIMIT4.3V設定
出力短絡状態、レスポンス設定 CV:3.5us、CC:35us

●充電方法(2)CVモード、I-LIMIT制御
<測定条件>
CVモード設定、出力電圧4.3V設定(V-LIMIT設定は工場出荷時設定(22V))
出力短絡状態、レスポンス設定 CV:3.5us、CC:35us

おすすめは「CCモード」と「V-LIMIT」の組み合わせ

考えられる2つの充電方法について、電流を制御した場合の出力電流波形を比較しました。
CVモード設定で、I-LIMITにより電流を制御する充電方法(2)では、電流の立上り、立下りがレスポンス設定に対して遅く、階段状の波形になっています。これはI-LIMIT値を変化していることによる現象です。

I-LIMIT値は、直接出力電流値を制御する目的ではなく保護機能であることから、その設定制御は遅く、0.74ms程度の周期にて設定制御が行われています。よって、I-LIMIT値を急峻に変化した場合、約0.74msのステップ状に電流が変化します。結果、出力電流波形の立上り、立下りが遅く、階段状になってしまいます。

以上のことから、充電電流を制御するような用途では、充電方法(1)を推奨します。
ただし、充電電流は一定で、細かく制御したりあまり精度を求めない場合には、満充電電圧をより精度よく制御できる充電方法(2)を推奨します。これは、V-LIMITが記載しているように保護機能であり、その設定精度が、CV制御に及ばないためです。

  • CVモード 
    設定確度±(0.05% of setting +0.05% of rtg)
    設定分解能  0.001V(ファイン0.0001V)
  • V-LIMIT
    設定確度±   1% of rtg
    設定分解能  0.1V

なお、V-LIMITの電圧検出は出力端子です。センシングには対応できませんので、その点はご注意ください。

執筆者: 伊藤

[主な製品開発実績] 直流安定化電源 PAT-Tシリーズ

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