絶縁物中のボイド等で放電が発生しても電極間の放電には至らない状態のことを部分放電といい、その時の電荷移動量や放電パルスを測定するのが「部分放電試験」です。

KIKUSUI mag コラム

部分放電(Partial Discharge)とは

掲載日-2022年10月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

部分放電とは

部分放電とは、導体間の絶縁を部分的にのみ橋絡(キョウラク)する放電をいい、導体間を完全に橋絡する放電は含まない(JEC-0401-1990より)と定義されています。絶縁材料が部分放電にさらされると、放電によって直接的に侵食されるばかりでなく、放電が原因で生じる活性酸素・オゾン・酸化窒素・酸などによって材料が物理的化学的に変化し、劣化していく(※1)ことが知られています。

それでは、なぜ部分放電が起きるのでしょうか?
部分放電のメカニズムをモデル化すると次のようになります。

絶縁物は何らかの理由(ボイド、欠損、材料不均一など)で組成が一様でない場合、さまざまな容量を持ったコンデンサの集まりと見ることが出来ます。ボイド(気泡)を例に取り、部分放電を説明すると以下の通りです。

部分放電のメカニズム
絶縁物中にボイドが1個ある例

全体の静電容量CはC=C1+C4+C2×C3×Cv/(C3×Cv+C2×C3+Cv×C2)です。ボイドCvに印加される電圧Vvはボイドに火花放電が生じないとして、Vv=V×C2×C3/(C3×Cv+C2×C3+Cv×C2)となり、ボイド(気泡)の性質からC2、C3>>Cvと考えると、VvVとなって印加電圧VがほとんどCvにかかることになります。

絶縁距離が短いボイドは比較的低い電圧で放電して、ボイドで放電が発生しても絶縁物があるので電極間を短絡する放電には至りません。以上の例のように、絶縁物中のボイド等で放電が発生しても電極間の放電には至らない状態のことを部分放電といい、その時の電荷移動量や放電パルスを測定するのが「部分放電試験」です。したがって、部分放電を測定することによって絶縁材料の状態を知ることが出来ます。

部分放電試験では、放電電荷量(単位:クーロン)の他に、以下の値が被試験物の絶縁特性を評価する重要なパラメータになります。

  • 部分放電開始電圧(Ui)※2:
    所定の大きさを超える部分放電が開始する電圧
  • 部分放電消滅電圧(Ue)※2:
    所定の大きさを超える部分放電が消滅する電圧

部分放電と絶縁破壊の関係

電極間に印加された電圧と放電の一般的な関係は以下のようになります。

部分放電の電圧
部分放電の電圧─電流特性概念図

被試験物に印加した電圧を徐々に上昇させると、まず部分放電が開始(A)して、その後火花が発生(D)します。その後、アーク放電(E)に移行して被試験物は絶縁破壊します。アーク放電に移行してさらに電力が供給されると、絶縁破壊した被試験物はアーク放電の熱で焼損します。部分放電領域をさらに詳しく見ると、(A)の部分放電開始のあと、(B)から(C)の安定領域があります。この領域では絶縁物中の複数のボイド等で部分放電が発生しています。その後(C)から(D)の部分放電急増領域を経た後に、各ボイド感の絶縁が破壊されてアーク放電に移行します。

耐電圧試験と部分放電試験の違い

耐電圧試験は漏れ電流をしきい値としてGO/NGの判定が主たる試験です。一方、部分放電試験は絶縁物・絶縁状態の特性を放電電荷量を通して調べる試験です。耐電圧試験では印加するエネルギーが大きく被試験物へのダメージも大きいですが、部分放電試験ではそのエネルギーが非常に少ないので非破壊試験と言われる所以(ゆえん)です。

耐電圧試験と部分放電試験の違い

※1参考文献「放電ハンドブック」(電気学会放電ハンドブック出版委員会)※2添字i、eはinception(開始)、extinction(消滅)の意です。

(この文献は菊水電子工業 季刊情報誌SAWS 1999年春号に掲載された記事です)

執筆者: 菊水電子工業株式会社

計測と電源のエキスパート・カンパニー 菊水電子工業のスタッフによる執筆です。

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