当社の販売する直流安定化電源は、しばしば電池に例えられます。電圧・電流だけを見ればどちらも直流を取り出せるという意味で同じなのですが、実は決定的に違う部分があります。それは内部抵抗値との関係です。
直流安定化電源は、定電圧(電圧優先)モードであれば、負荷に応じて電流値が変わった場合でも、制御回路によって電圧を維持しようとします。しかし、電池の場合はそれと異なります。電流が増えるに従って、電池の内部抵抗値により、電圧が下がってきます。特に、二次電池においては、充放電を繰り返し劣化したものは内部抵抗値が大きくなっており、電圧降下も大きくなります。寿命が尽きかけた二次電池が、充電してもすぐに使えなくなってしまう(電圧が下がってしまう)のは、こういった理由からです。
さて、昨今は、二次電池を使用した電気製品が数多く世に出回っています。そういった中、製品試験において「ダメになりかけた電池での挙動を確認したい」というご要求を伺うことがあります。つまり試験用電源であっても、電流値に応じて電圧が降下するようにはならないかと。
一つの方法としては、電源の電流をモニタして、その値をパソコンで監視しつつ、同時に電流に応じた電圧設定を電源にフィードバックするプログラムを組む、というのが考えられますが、やや面倒な感じは否めません。
そこで、当社の高速バイポーラ電源PBZシリーズの標準機能のみで、簡単に「内部抵抗可変機能」を実現する方法をご紹介します。しかも、他に用意するものはBNC-BNCケーブルが一本のみです。
準備はPBZシリーズの前面端子「EXT SIG INとI MON」を直結するだけ
高速バイポーラPBZシリーズには、外部電圧による出力電圧コントロール機能(EXT SIG IN)と電流モニタ(I MON)があります。そしてそれらの端子が前面パネルにありますが、準備としては、それをBNCケーブルで接続します(写真1)。あとはEXT SIG IN信号のゲイン設定をパネル操作で設定するだけです。
写真1
EXT SIG IN信号のゲイン設定
電流モニタI MON値(出力電流値)をEXT SIG IN端子に加える際のゲイン値を決めます。出力電流値に対して、EXT SIG IN端子のマイナスゲイン設定をすることで、出力電流値の増加に伴い、出力電圧を低下します。内部抵抗値からゲイン設定値を算出して、ゲイン設定により内部抵抗値を設定します。なお、EXT SIG IN端子を使用する際は、オフセット調整が必要となります。出力電流最大値にて、FINE設定によりオフセット調整を行うようにしてください。
●設定内容
〈パネル設定〉
出力電圧設定:DC設定
オフセット設定:FINE設定
〈CONFIG設定〉
SIGNAL SOURCE設定(写真2)
SELECT:ADD → 内部信号源とEXT SIG IN信号を加算
EXT,SELECT:BNC → EXT SIG IN端子を選択
EXT,GAIN:-○○.○ → ゲイン設定(内部抵抗値設定)
●内部抵抗値→ゲイン設定値の算出式
G = − (R×I)/2
G:ゲイン設定値、R:内部抵抗、I:定格電流、2:I MON出力電圧
写真2
動作実験
PBZ20-20を使用して、実際に内部抵抗可変設定をおこなった例です(図1、図2)。
●出力電流最大10Aにて、オフセット調整しています。出力電圧=最大電圧20V-(内部抵抗値1Ω×出力電流10A)から出力電流10Aで、出力電圧10Vになる様にオフセット調整を行いました。調整電圧は0.183V(FINE設定による)です。
●波形測定条件(機材・設定等)
PBZ20-20前面バインディングポストを使用(電圧波形測定も同様)
電流波形測定カレントプローブ:TCP202
電子負荷装置PLZ1004W:波形設定0-10A/1kHz方形波D=50% 、スルーレート設定:1.6A/us(Mレンジ)
配線長:約3m
このように、PBZシリーズのI MON端子とEXT SIG IN端子をBNCケーブルで接続するだけの簡単な接続と、EXT SIG IN信号のゲイン設定により内部抵抗値が設定でき、容易に内部抵抗可変が実現できます。ただし、内部抵抗値の設定分解能はゲイン設定の設定分解能に依存しますので、その点はご注意ください(図3)。