サイン波の交流電圧において、サイクル単位での解析・評価をしたいというご要求をいただくことがあります。詳細を伺うと、系統連系する機器の評価試験とのこと。
系統連系とは、発電設備と電力系統の接続・連動を指し、近年家庭用の太陽光発電や燃料電池発電などの普及とともに、それらに関係する設備機器(パワーコンディショナー等)を開発・製造するメーカーも増加。よってそういった製品の規格評価・検査をしなければならないというニーズも増えたということですね。調べると、確かに系統連系の規格の中にサイクル単位での試験要件があります。
キクスイの交流電源にPCR-LEシリーズという製品があります。この製品は「リニアアンプ」という回路方式で、整流回路により入力交流電源をいったん直流電源に変換し、内蔵の発振器が作る正弦波基準電圧波形で電力増幅(交流出力)をします。なので、基準電圧波形を作る発振器をうまく制御できれば任意の交流波形が出せるわけです。
PCR-LEシリーズには通信インターフェースがあるので、C言語等でPC制御することもできますが、プログラミングに慣れていない方だと敷居が高いかと思います。ここではもっと手軽な方法として、PCR-LEシリーズの「シーケンス機能」を利用してサイン波の交流電圧50Hz(三相)で、1サイクルだけ51Hzで出力する例を紹介したいと思います。
なお、シーケンス機能の作成・編集・実行には、キクスイのシーケンス作成・制御ソフト「 Wavy for PCR-LE(SD011-PCR-LE)」を用います。
準備
システムの構成図を(図1)に示します。
なお上記は、PCR-LEシリーズをオプションで拡張した三相システムですが、その派生モデルであるPCR-LE2シリーズでも可能です(写真1)。PCR-LE2シリーズは一台で、単相と三相の出力を設定切替えだけで変更できる便利な「マルチ相」タイプの交流電源です。
写真1:PCR-LE2シリーズ
シーケンスデータの作成
シーケンスデータとシーケンスプレビューを(図2)に示します。
このTIPSの考え方は、基準周波数を逐次制御で可変するのではなく、50Hzの中に51Hzのサイクルを「切り貼り」で挿入してしまえということです。
手順としては、51Hzのステップ(ここではステップ1)について
(1)「間隔」を50Hzの1サイクル(20ms)未満である19msに設定します。
(2)ステップ1の「開始位相」と「終了位相」を固定(FIXED)に設定します。
(3)U-V相の線間電圧位相を基準(ゼロクロス)とするために、330°をそれぞれ設定します。
図2では、U-V相の線間電圧は青色で示しています。なお330°でなく、0°をそれぞれ設定しますと、U相の相電圧位相基準となります(図3の赤色の線)。またこの例での電圧値は、相電圧設定となっています(線間電圧202Vは、202÷√3=116.625です)。
この設定のポイントは、前後の50Hzサイクルとの整合(つながり)を保つため、51Hzの開始位相と終了位相を固定にし、間隔を50Hzの1サイクル(20ms)未満にすることです。例えば、19msでなく、20msと設定した場合、2サイクル出力されます。
さて、作成したシーケンスデータを、交流電源PCR-LE本体に転送して、実行してみます。なお実行については、このシーケンスをPCR-LE本体に書き込んでしまえば、PCなしでも実行可能です。
オシロスコープで観測した実際の出力波形を図4に示します。
オシロのトリガ信号には、stat信号を使用しました。シーケンスデータにおいて、1ステップ目の「stat出力」を「on」にしています(図5)。「on」に設定し5V出力させることで、波形解析・評価がしやすくなります。
A-Bカーソル間の測定より、51Hzを確認できます。
このように、PCR-LEシリーズのシーケンス機能を使えば、設定が異なるサイン波を、簡単にマージ(連結)できますので、電圧を変えれば、瞬時電圧変動なども行えます。Wavyシリーズはキクスイの「ダウンロード」から試用版が入手できます。PCR-LEシリーズ本体がなくても画面操作・設定をおこなうことができますので、ご興味あればぜひお試しになってみてください。