コラム

計測トラブルバスターY氏の事件簿(1)

こんにちは! すっかりキクスイマグ編集担当に「不思議系キャラ」扱いされている矢島です(笑)。 今回よりお届けするのは「計測トラブルバスターY氏の事件簿」。キクスイのサポートダイアルで、日々お受けするお問い合わせの事例等を […]
投稿日-2017年3月

 

こんにちは!
すっかりキクスイマグ編集担当に「不思議系キャラ」扱いされている矢島です(笑)。
今回よりお届けするのは「計測トラブルバスターY氏の事件簿」。キクスイのサポートダイアルで、日々お受けするお問い合わせの事例等を元に、当社製品を使う上で「現場で活かせる実践的な知識」をお伝えできればと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
さて初回は、通信制御での「ノイズ」に関するお話です。

パソコンやPLCは現代の「魔法の杖」

パソコンやPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を使用して様々な機器をリモート・コントロールする使い方は、ごくごく一般的です。製品の調整・検査に使用する複数の設備の設定を手順通り正確に行ったり、何ヶ月も休まずにひたすらデータを取り続けてくれるリモート・コントロールはまさに現代の魔法の一つともいえるでしょう(ちょっと大げさ)。
今回はそんな便利な魔法の杖を使う際に、邪魔をする魔物「ノイズ」を退治するヒントになるお話をしたいと思います。(こういう例えが「不思議系」扱いの原因かな?)

始まりは1本のお問い合わせ電話

当社サポートダイアルの担当者は日々様々な技術的問い合わせをお受けしています。簡単なものであれば良いのですが、大抵は様々な条件が絡み合って起こっている問題のお問い合わせが多く、現場の状況を順番にお聞きしながら「絡み合った糸」をほどいて、最終的にトラブルを解決するのが日々の仕事です。

ある日、次のような電話をいただきました。
「USBで御社の耐電圧試験器をコントロールしているのだが、時々通信エラーが起きてプログラムが止まってしまう。ソフトの不具合ではないのか?」
いろいろ調べてみた結果、どうやらソフトが原因ではなさそうということが分かったので、「これは行くしかないな」と、トラブルが起こっている現場を調査しに伺いました。

そこで私が見たものは・・・!

現場は魔物の巣(失礼)だった

そこには、長〜いUSBケーブルと、それに沿うように引き回された長〜い高圧出力ケーブルを繋いだ耐電圧試験器がありました。
とっさに「これは被試験物が絶縁破壊した時にノイズが出るだろうな」と思いましたので、USBケーブルと高圧ケーブルを離し、USBケーブルにEMIコア(ノイズフィルタ)を取り付けてみました。少しはましになったのですが、完全解決とはいきません。
ノイズを受ける側(USBケーブル)の対策だけではなんともならないようです。
困りました。このままではお客様がせっかくの「魔法の杖」を思うように使えません。

ノイズは発生源から断つ!

調べていくと、製品の取扱説明書に対策のヒントがありました。

ノイズ影響の軽減
出力間が短絡されたり、被試験物の絶縁破壊によってノイズが発生します。その影響で、周辺の電子機器などが誤作動する場合があります。ノイズの影響を低減させるために、高電圧側テストリードの先端と被試験物の間、および低電圧側テストリードの先端と被試験物の間(できるだけ被試験物に近い位置)に、トロイダルコア、または470Ω程度の抵抗を接続してください。

試しに耐電圧試験器の出力ケーブルをUSBケーブルに近づけた状態で出力を短絡すると、通信エラーが発生し制御プログラムは停止してしまいましたが、高圧ケーブルの途中に抵抗を挿入した状態で短絡すると、あら不思議。エラーはほぼ起きなくなりました。
取説はよく読むといいことが書いてあります。ぜひ通読しましょう。

なぜ抵抗を入れるとエラーが起きなくなるのか

耐電圧試験器は電源の一種ですので、高電圧の交流電圧源と見ることもできます。電源ですので、負荷に対して電流を流すことができます。TOSシリーズ(簡易型は除く)は定格として110mAまで流す能力を持っていますので、例えば10kΩの抵抗を接続して、1kVの設定にすればおおよそ100mA程度の電流が流せます。
この状態(全負荷)なら通信エラーは起きないのですが、問題は「もっと少ない電流しか流れていないのに通信エラーが発生するのはなぜなのか?」、「抵抗を1本入れただけでどうしてエラーが出なくなるのか?」について、考えてみましょう。

図1 部分放電が起こっている例

図1 部分放電が起こっている例

(図1)は交流電圧をある部材に印加した時に流れる電流を観測したものです。黄色が電圧波形なのですが、青い電流波形は細いヒゲのような波形になっています。これが今回の問題のヒントです。

放電時に流れる電流波形を観測すると、放電時に鋭いパルス状の電流が流れています(実際の観測は結構難しいです)。これらをフーリエ解析(FFT)してみると、商用周波よりもはるかに高い周波数成分を含んでいるのがわかります(数十MHzから数GHzに及ぶことがあります)。この波形で見ると、電圧波形の変動周期は20msで1周期になっていますが、電流の方ははるかに短い時間で1回の電流上昇・下降が起こっていることがわかります。
周波数は時間の逆数ですので、電圧・電流の周期から周波数を求めてみます。

  • 電圧の周波数=1/20(ms)=50(Hz)
  • 電流の周波数=1/0.1(μs)=10(MHz)
  • ※電流の時間は概算です。

こうしてみると、電圧に比べて電流の周波数成分は桁違いに高い周波数成分を持っていることがわかります。

なぜ高い周波数だと通信エラーを起こしやすくなるのか?

ではどうして、50Hzの成分はエラーをおこしにくく、10MHzの成分はエラーを起こしやすいのか?を考えてみます。 USBは2.0 Full Speedの場合、12Mbpsの速度で通信が行えます。1ビットあたりの時間は83nsで、信号振幅は3.3Vです。50Hzの成分はUSBの信号速度から見たら、まるで直流と同じぐらいの変化時間なので、もし仮にケーブルに50Hz成分が乗ったとしても1ビットだけ狙ってエラーさせるようなことはできません。しかし、10MHzの成分はUSBの1ビット分の時間に対して十分影響させられる周期ですので、これが乗ってきたら無視できないでしょう。
しかし、ノイズの乗り方にはもう少し深いものがあります。それは「共振」です。
:USB2.0には2つのモードがあり、High Speedモードが480Mbps、Full Speedモードが12Mbpsの伝送速度です。

図2 波長の長い・短い

図2 波長の長短

同じ電流値でも周波数が高いと波長が短くなるため、短いケーブルでも共振が起きやすく、通信信号に影響を与えます。 たとえば、50Hzの成分の波長は約5.9kmですが、10MHzの成分の波長は30mと短くなります。また、共振が起こった場合、電圧の最大点は波長の1/4の長さになることがわかっています。
したがって、ケーブル長が波長の1/4になった点がノイズ電圧最大のポイントになるので、例えば10MHzのノイズ成分で共振が起きていると、7.5mのケーブルが最も感度の良い「アンテナ」になるため、USB通信信号が妨害されエラーになってしまうというわけです。
もし、50Hzの成分で共振させようとするなら、約1.4kmのケーブルが必要になります(厳密には短縮率を考慮する場合もありますが、ここでは簡略化して考えます)。

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図3 1/4波長アンテナの電圧・電流分布

ノイズ成分は周波数が高くなるほど少なくなりやすい性質を持っていますので、「ケーブルを短くするとノイズを受けにくくなる」というのは、「共振する周波数がノイズの少ない周波数になるので、結果としてノイズを受けにくい」ということ。機器接続において「ケーブルはできるだけ短く」というのはここから来ています。

ダンピング抵抗を入れてみる

耐電圧試験器を使用する際に、被試験物の絶縁破壊によって起きるノイズ成分を減らす方法として、当社では高圧ケーブルの途中に抵抗を挿入する方法を推奨しています。

ノイズ影響の軽減
出力間が短絡されたり、被試験物の絶縁破壊によってノイズが発生します。その影響で、周辺の電子機器などが誤作動する場合があります。ノイズの影響を低減させるために、高電圧側テストリードの先端と被試験物の間、および低電圧側テストリードの先端と被試験物の間(できるだけ被試験物に近い位置)に、トロイダルコア、または470 Ω 程度の抵抗を接続してください。
トロイダルコアを接続する場合には、電源ケーブルなどに使用する直径20 mm 程度の分割式のコアにテストリードを2~3 ターン巻くと効果があります。抵抗を接続する場合には、抵抗の電力定格に注意してください。上限基準値が10 mA 以下の時は470 Ω(3 W、インパルス耐電圧30 kV)程度の抵抗を接続してください。この抵抗を接続した場合には、被試験物に実際に印加される電圧は抵抗による電圧降下が発生するために、本製品の出力端子電圧よりも若干低い電圧(10 mA の電流が流れた場合には、約10 V 低い電圧)になります。これらの対策は、ノイズの影響を低減させるためには大変効果があります。

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図4 抵抗を挿入してノイズを抑える

(図4)のような接続を行いますと、短絡時に発生するノイズを大幅に抑えることができます。実際にこの接続を行って電流波形を測定してみました。

対策実験

耐電圧試験器の出力電圧を0.5kVにして実験してみました。

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図5 対策前の電流波形

(図5)は、耐電圧試験器の出力をそのまま短絡した場合の電流波形です。絶縁手袋をはめ、手作業でバシッと短絡しているので、チャタリングが発生し細いパルスになっています(危険ですので真似はしないでください)。
波形でも分かる通り、3A近い細いパルスが発生しています。
ところで「耐電圧試験器は110mAしか流せないのでは?」と思った方は鋭い!110mAは実効値電流ですが、このパルス電流を流すもとは試験器内部の平滑コンデンサです。コンデンサなので溜まっている電荷があれば短時間ではあるものの、負荷インピーダンスが低ければ低いほど電流が流れます。

これに対して470Ωを通した場合のノイズ発生の仕方です。

図6 対策後(470Ωあり)の電流波形

図6 対策後(470Ωあり)の電流波形

(図6)の通り、約1A以下に抑えられています。これは、抵抗の挿入により耐電圧試験器内部のコンデンサに溜まっている電荷が一気に放出するのを防ぐことで、放電時間は伸びるものの振幅を抑えることが出来ているためです。

この対策を行うことで高い周波数のノイズ成分が減ってUSBケーブルに乗るノイズが少なくなり、結果としてエラーが減ることがわかりました。実験では、抵抗なしの場合、5回中4回は通信エラーが起きるのが、抵抗ありだと20回やってもエラーが起きませんでした。実験ではわざと高圧ケーブルとUSBケーブルを沿わせて配線し、エラーが起きやすい条件を作り出していますが、実際にお使いの場合は取扱説明書に従って、高圧ケーブルとUSBケーブルは十分に離してお使いいただければ、エラーはさらに起きにくくなります。

最後に

製品を上手に使うには、実際には様々な知識が必要になります。トラブルが起こったときは大変ですが、このように一歩一歩詰めていけば必ず解決できます。焦らずに順を追って考えていく習慣を身につけることがポイントかなと思います。
以上、計測トラブルバスターY氏の事件簿(Mission1)でした。

矢島

執筆者: 矢島

[専門分野] 低周波EMC規格全般 / 高調波・フリッカ計測技術 / アナログ回路設計(高精度計測) / アプリケーションソフト開発(C#、VB.net、Excel VBA) / [主な製品開発実績] 高調波/フリッカアナライザ KHAシリーズ / プレシジョンDCソース KDS6-0.2TR、標準信号発生器 KSG4310 /

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