電子負荷装置の豆知識や活用法をご紹介するコラムの3回目です。よろしくお願いいたします。
みなさんUSBメモリって使ってますか?
さて、今回の主役はUSBメモリです。USBメモリが登場した時(本格普及は10年くらい前ですかね)、「なんて便利なんだ!」と私は思いました。当時まだPCのLAN接続は普通でなく、基本スタンドアローン。なのでデータを他のマシンに移そうとすると、着脱できる普及型メディアであるフロッピーディスクをよく使いました。容量は3.5インチ片面倍密度タイプで1.44MB(!)しかない。なので大きなファイルサイズのデータは分割して(そういうツールもありました)、せっせと複数のフロッピーに書き込む。で、読み込むPCでは、また一枚一枚せっせと(ディスクを入れ替えながら)読み込んで復元、ということをやっておりました。昔は洗濯を手でやっていたみたいな話ですかね(笑)。
発売当初は数十、数百MB程度だったものが、あれよあれよと言う間にギガ(G)になり、最近ではテラ(T)オーダーのものあります。そんな便利なUSBメモリですが、ある時からその「大容量かつ手軽」が故に特に会社内で迫害を受けることになります。それはセキュリティ(情報保護)です。PCのUSBポートに刺すだけで、誰でも簡単に大量のデータをコピーできるため、企業内情報漏洩という観点から、この道具はいかがなものか?と。その結果、それまで気軽に社内で使われていたUSBメモリは、基本「非推奨」となり、使う場合は暗号化タイプを、などということなった会社が多いのではないかと思います。
また社内LANも普通に整備されるようになり、データコピーにリムーバブルメディアを使う機会も減っています。そういったことで、使われなくなったUSBメモリが、あなたの机の引き出しの奥の方にもあるのではないでしょうか?
今回は、そんなUSBメモリを電子負荷装置で「再活用」してみませんか?というお話です。
デジタルインターフェースのおさらい
USBメモリの活用方法の紹介の前に、電源/電子負荷装置でのデジタルインタフェースの現況をおさらいします。ご存知の方は読み飛ばしても結構です。
最近の電源/電子負荷装置にはデジタルインターフェースが充実したモデルが増えています。応答性の良さなどでまだまだアナログインターフェースも必要ではあるのですが、システムを構築する上で他の計測器との接続性などからデジタルインターフェースの利用が確実に増えています。
代表的なデジタルインターフェースとして、RS232C、GPIB、USB、LAN(LXI)が上げられます。
RS232Cはかつては多くのパソコンに実装された標準的なシリアルインタフェースであったため、多くの計測器に装備されています。現在でも「試験実行のシーケンスはアナログ(I/O)信号で」「設定値はシリアル通信で」といったPLCから制御するようなシステムで使われる例が多くあります。
なお、RS232Cでは「伝送距離が短い」「1:1の接続しかできない」との理由から、拡張仕様であるRS422A(1:10)やRS485(32:32)と言った規格もあります。
GPIB(General Purpose Interface Bus)は、Hewlett Packard社(現Keysight Technologies社)が、PCと計測器を接続するために、1960年代に設計したインターフェースで、当初はHPIB(Hewlett Packard Interface Bus)と呼ばれていました。その後1975年に、IEEEにて、IEEE-488の規格番号として承認され、国際標準規格となっています。
特長としては耐ノイズ性が高く、接続方法もスター型、ディジーチェイン型に対応。一つのバスに、最大で14台のデバイスを接続することができます。欠点としては、コネクタが大きく取り回しが悪いのと、PC側のインターフェースボードを別途購入する(結構高額です)必要があったりします。
LANポートは現在最も普及しているインターフェースです。LANは既にハードウェアとしては広く普及しているため、計測器業界で「LANポートを利用した計測器制御の為の規格を作ろう」として生まれたのがLXI(LAN eXtention for Instrumentation)です。なお、キクスイはLXI ConsortiumのInformationalメンバーです。
イーサネット(LANポート)はパルストランスで結合されているため絶縁性が良い事、同様の理由で伝送距離が長い等の理由からLXIは次世代のスタンダードバスとして期待されています。
キクスイ製品の前面パネルにLXIのロゴを見かけた方もいらっしゃるかと思います。新製品は原則としてLXIに準拠してゆく予定ですので、ぜひご活用いただければと思います。
最後にUSBですが、最も手軽に接続出来る事から多くの計測器に実装されています。実は通信の開通までにはベンダーIDやプロダクトID、製造番号等を確認するなど面倒なお約束もあるのですが、LAN同様広く普及されているインターフェースです。「ケーブルが抜けやすい」「コネクタの耐久性が低い」「ノイズに弱い」等、LAN(LXI)に比べるとプロユースにはどうかな?と言う点もありますが、手軽さではピカイチで、「とりあえず動かしてみよう」「コマンドの確認だけ」というニーズにはぴったりなインターフェースではないかと思います。
キクスイ製品とUSBポート
さて、USBポートにはご存じのようにホスト(PC)側のTYPE-Aと、デバイス(電源、電子負荷等)側のTYPE-Bがあります。キクスイ製品はデバイス側なので、コネクタは基本TYPE-Bになりますが、最近の製品ではTYPE-A(ホスト側)コネクタを実装したものがあります。たとえば交流電源PCR-LEシリーズや電子負荷装置PLZ-5Wシリーズには前面パネルにTYPE-AのUSBコネクタが実装されています(写真1)。
これはUSBメモリを利用することを想定したインターフェースです(なおPLZ-5WシリーズにはUSBキーボードも繋がりますよ!)。その利用目的はファームウェアアップデートです。
写真1 PLZ-5WシリーズのTYPE-A USBポート
そして実はその他に、メモリ機能の拡張用ストレージデバイスとして使う事ができます。
PLZ-5Wシリーズの場合、本体メモリに保存できるセットアップ数は20個までなのですが、USBメモリを使うことで更に保存する事が可能となります。セットアップメモリは動作モード、レンジ、コンフィグ設定を含めた各設定を全て保存してくれるので、他のPLZ-5Wシリーズに移植して同じ設定を再現することができます。
USBメモリでの保存は、本体メモリに保存するのと同じ感覚で保存先メモリ(拡張子名.info)を選んで[Save]キーを押すだけです。保存した内容は[Property]キーを押す事で概略の内容をその場で確認する事が出来ます。(写真2)
写真2 メモリ画面
呼び出しも簡単で、メモリを選んで[Recall]キーを押すだけです。前回紹介したARBモードのテーブル値や外部コントロールの設定、表示の追加、ABCプリセットメモリ等までセーブ&リコールできます。USBメモリの場合はリネームも出来ますので、内容の分かりやすいファイル名に変更する事ができます。またUSBメモリをPCに挿してPC上でのリネームも有効です。なお名称に2バイト文字(日本語)を使うとPLZ-5W側で読めませんのでご注意下さい(「???」という表示になります)。
電子負荷装置PLZ-5WシリーズでのUSBメモリ活用法
ということで、引き出しに眠っているUSBメモリがあったら、電子負荷PLZ-5Wのセットアップ情報の共有に使ってみませんか?というご提案です。
例えば事業所の分かれている職場同士で「試験条件教えてくれない?」といった時に、メールの添付ファイルにしてセットアップ情報を送る事が可能です。ファイルサイズは非常に小さいので、メールで送ってもまったく負担になりません。 受信したファイルをUSBメモリを使ってPLZ-5Wシリーズに読み込ませれば、設定を即再現できます。
PLZ-5Wシリーズのモデルが異なる場合であっても、設定値が定格範囲内であればそのまま展開してくれます。ARBモードのテーブルも保存できますので、別途アプリ(キクスイのWavyなど)を使わずに、サンプルやテンプレート的なテーブルを共有、運用する事も可能です。
また、例えば充放電システム等に組み込む場合の外部制御の設定などの保存、共有にも利用できます。デフォルトの設定値を先にSaveしておけば、システムアップ(用に設定を変えた)後も、先のメモリをRecallするだけで、簡単に元の状態(デフォルト)に戻せます。
なお本体メモリと併用する場合は「00.infoはデフォルト値、11、12、13は標準試験用」などとルールを決めておくとよいかもしれません。
USBメモリの利点は、リネームが簡単にできる事ですね。それが応用性を広げているんじゃないかと思います。なお、PLZ-5Wシリーズに使用できるUSBメモリの最大容量は、32GB(フォーマットはFAT32)になります。ぜひ機会がありましたら、お試しいただければと思います。