コラム

難題の解決だけがソリューションか?

こんにちは。ソリューション開発部の新垣です。 本コラムでは、製品設計についての経験談などをお話できればと思っております。 あ、ちなみに名前の読みは「あらかき」です。女優さんの「ガッキー」さんとは字面は同じですが、わたしは […]
投稿日-2017年8月

 

こんにちは。ソリューション開発部の新垣です。
本コラムでは、製品設計についての経験談などをお話できればと思っております。
あ、ちなみに名前の読みは「あらかき」です。女優さんの「ガッキー」さんとは字面は同じですが、わたしは濁りませんので。よろしくお願いいたします。

さて突然ですが、ここでみなさんにクイズです。
次にあげる商品には、ある共通点があります。それは何でしょうか?

カルピスウォーター
クックドゥー
リンスインシャンプー

説明するまでもありませんが、カルピスウォーターは飲料、クックドゥーは調味料、リンスインシャンプーは洗髪剤です。おそらくどれも、一度は口にしたことがある、使ったことがあるものでしょう。
「どれも何かを混ぜたものじゃない?」
ん〜惜しい。カルピスウォーターは「カルピスと水」、クックドゥーは「中華料理用の複数の調味料」、リンスインシャンプーは「シャンプーとリンス」です。でもそこではありません。

では答えです。いずれも消費(使用)者の「(最適な状態を実現する際の)手間を省いてくれる」ということです。

手間=作業=付加価値?

世の中の様々な場面において「手間だな、面倒くせ〜」があります。個人の生活場面はもちろん、会社の仕事の中にも「ゴロゴロ」あるはずです。「面倒なことをするのも含めて仕事だろ」という意見もありそうですが、ここでちょっと考えてみましょう。

例えば人が直接手を加える行為、身体的な施術や職人的な手工芸などは、時間を掛けること(プロセス)に価値がありそうです。こういった事柄があまりに「短時間」だと、ありがたみに欠けるように感じます。
一方、成果物(結果)がよければ良しという事柄は「費やす時間=価値」とは見なされにくいですね。とりわけ私たちの携わる工業製品はそれが顕著だなと感じます。これが農作物や食品といった「生もの」なら、生育時間や熟成・発酵期間などが必要と言われれば、「そうだよね」と理解されやすいかなと。
機械ものは基本的に「寝かせる時間」は必要ないはずなので(連続通電評価「エージング」というのはありますが)、「さっさと作ってよ」となります。

製造に携わる方なら重々お分かりかと思いますが、規格品の生産は時間勝負です。決められた作業手順をいかに正確に早くおこなうか。こういった状況においては、残念ながら「心をこめて丁寧に」といった心情的な要素は価値として見なされません。見た目やんちゃなお兄さんが口笛吹きながら、乱暴そうに作業していても、アウトプットが仕様通りになっていれば合格なんです。
とりわけ日本人には、作業の結果には、それを作った人の「誠意」とか「苦労」といった見えないものを感じたいという心情があるように思います。万物に神様がいる八百万(やおよろず)の神の国だからでしょうか。
しかし残念ながら、結果(品物)を受け取る側にそれが伝わるかどうかの保証はありません。なにか世知辛い感じもしますがそれが現実です。

日々の仕事の中で、明らかに手間で時間もかかるのだけれど、結果としてそれが製品価値に反映されないような事項があります。しかし手間だからといっていい加減にすることもできない。まさに「面倒」なことです。
冒頭にあげた、消費財3品は、それだけを見ると実にたわい無い様に思えます。「そんなもの自分で混ぜればいいじゃないか、混ぜただけで余計な金とるな」などと、くちさがない人もいるようです。しかしいずれも調べると「薄める、混ぜる」にも深いノウハウがあって「単に混ぜた」ということではないようです。これなどは「伝わりにくい価値」の典型ですね。

最適を手間なく実現できることも「ソリューション」

ここでようやく本題です。キクスイでは以前から、電源や計測器のラックアセンブル(ラックアップと配線)を特注としてお請けしていますが、近年はラックアップを仕様化し「スマートラック」と称した製品として提供する例が増えています(写真1)。
わたしは、そのスマートラックの一製品である「バイポーラ電源PBZ SRシリーズ」、「交流電子負荷PCZ-A SRシリーズ」を担当しましたが、これらも意地悪く言えば「ラックに入れて配線しただけじゃねーか」なんですね。

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写真1 スマートラックの例

実際こういった作業をした方なら、わかっていただけるとは思うのですが、ラックに組み込んで一次側、二次側を配線し、一体物として正常に動作すること(=仕様)を保証するのは、実は簡単ではないのです。そこここに細かいノウハウがあって(でも熟練者であるほど、ノウハウとは思ってなかったりする・・・そこが皮肉)、ただ繋げただけでは思う様に動かないケースが多々あります。これも「伝わりにくい価値」だなと思います。

とりわけ「PCZ-A SRシリーズ」は、複数台を並列して単に大容量化しただけはなく、交流入力の相数・結線に応じて、負荷ユニットの組み合わせを自在に変えることができるシステムです。これは、お客様が自分でやってできない話ではないです。ただ非常に「面倒くさい」作業であることは間違いありません。時間が潤沢にあって手間も楽しいというのなら、スマートラックは「高い」とお感じになるでしょう。というか必要はないでしょう。

しかし、一般的にこの種の「段取り替え」は、短時間で済ませたいと考えるはずです。なぜならそれ(切替え作業)自身は価値を生まないからです。スマートラックの価値はまさにそこです。時間と作業の正確性を金で買う様なことですね(言い方いやらしいですけど)。これも立派な「ソリューション」ではないかと思っています。
ということで、以下にわたしが担当した「PCZ-A SRシリーズ」の開発経緯のお話をします。何を考え、何をした結果としてこの製品が出来上がったのか。仕様には記されていない「価値」がお伝えできればいいなと思います。多少手前味噌な感じもありますが・・・。開発ドキュメンタリーとして何かの参考になれば嬉しく思います。

スマートラックシリーズ誕生

キクスイの電源や電子負荷は、並列運転して容量を増やすことができる製品が多いのですが、出荷時から並列運転に対応した標準モデルはなく、お客様のご要望による特注扱いでラックアップしていました。
そこでいまから5年前(2012年度)に、バイポーラ電源PBZシリーズと、直流電子負荷装置PLZ-4Wシリーズについて、最初から並列運転できるようにセットアップされた製品「スマートラック」が企画・開発されました。
このときに、わたしはPBZのスマートラックを作ったのですが、今回はその翌年に開発した交流電子負荷装置「PCZ-Aシリーズの並列運転版(PCZ-A SRシリーズ)」の開発経緯をお話します。

PCZ-A SRシリーズの話があったのは、PBZスマートラックの開発が終わり、ほっとしていた2013年4月のことでした。突然会議室に呼び出され、いきなり設計担当に指名です。いつものことですが・・・。

  • 今年の開発品は交流電子負荷装置の大容量版で行きます。
  • 概要はPCZ1000Aを並列運転して単相2線、単相3線、三相3線、三相4線が簡単に切替えられるもの。
  • もちろん安く作ってね。
  • 容量は、3kW、6kW、9kW、12kWね。※12kWモデルは、後の検討でボツになりました
  • 年度内に開発よろしく。

ざっとこういった説明を受けて、早速仕様の煮詰めです。

交流電子負荷装PCZ1000とは

PCZ-A SRシリーズの基本ユニットとなる「PCZ1000」は、CC/CP/CRモードで動作する1kWの交流電子負荷装置で、2000年リリースの製品です。その後2007年に、一部機能の追加(5台並列運転等)があり形名が「PCZ1000A」になりましたが、基本設計は継承したままですので、ぶっちゃけ古いです(写真2)。しかし今日まで生産・販売が継続している事実を鑑みると、設計としては垢が落ちきった、いわゆる「枯れた」状態、つまり非常に安定した品質を持っているとも言え、これはこれで安心して使える製品ではないかと思います。

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写真2 PCZ1000A

開発するPCZ-A SRシリーズの目玉は、やはり「入力結線切替え」機能です。その機能実装について色々考えました。

6KWモデルを単相2線、単相3線、三相3線、三相4線で切替えするのであれば、単相2線はPCZ6台を1出力に、単相3線は、3台+3台の2出力に、三相3線は2台+2台+2台の3出力をデルタ結線に、三相4線は2台+2台+2台の3出力をY結線に、それぞれまとめることになります。
また、25ピンの並列運転用の専用コネクタの信号をそれぞれ切替える必要もあります。

こういった結線の切替えをスマートに行おうとすると「セレクトスイッチ」を設けて、フロントパネルの操作のみで、単相2線、単相3線、三相3線、三相4線の切替えができるようにしたくなります。しかしそのためには、かなり本数の配線をリレーで切替えする必要があり、また制御系の回路、電源も必要になるでしょう。不可能ではないものの原価がかなり高くなりそうです。

こういったとき「そもそも論」が頭の中をよぎります。そもそも切替えが必要なお客さんってどれくらいいるのだろう?複雑な切替え型モデルよりも、それぞれの結線方式に対応した「単機能モデル」をラインアップした方が楽なんじゃないかな?
常套的には先にきちんと市場をサーベイして、ビジネス的に見合うかどうかを検討するところでしょう。しかしこういったニッチな製品はサーベイすること自体が難しい上、仮に何らかの数値を得られた場合でも、「ペイしない=やらない」という結論になります。小さい市場って、調べるほど「やらない方が得策」と言う結論にしかならいんじゃないかと思うのです。

しかし一方で、営業担当者や開発担当者がお客様に接するなかで得る「肌感覚」というのがあります。お客様の口から直接聞くことはないけれど「ニーズはありそうだ」、「よろこんでもらえそうだ」という製品の芽があります。いわゆる直感です。需要の数字(裏付け)を見て製品化するというのは正論ですが、それって見方を変えると「つまらない」とも言えませんか。あかじめ答えを知っているクイズに淡々と答えて「全問正解」することは楽しいでしょうか?

計測器や電源のビジネスは消費財と比べると、はるかに小さな商売です。「儲けたい」と思うなら選んではいけない商売かもしれません。商才のある人ほどやらない商売でしょう、たぶん。ということはキクスイはアホなのか?
でもそこがキクスイらしいというか、この仕事のおもしろいところでもある気がします。
話が逸れました・・・

こんな具合にぐちゃぐちゃ考えましたが、結局切替えできるものを安く作るのが方針であったので、まずは原価が高くなる自動切替方式はやめて、手動切替方式に決定。そして販売後の様子を見てその先のことは考えることにしました。

製品設計

仕様が決まり、製品設計に入るのですが、その前に以下の課題を考える必要がありました。

  • (1)最大並列運転台数を5台から9台に拡大するための要件

    ・ドライブ回路の変更

    ・発振対策

    ・ファームウェアの変更

  • (2)お客様が間違えないで配線できる仕組み
  • (3)スマートラックで9台積載する機構
  • (4)その他

早速(1)の実験に取りかかりました。PCZ1000Aをかき集めて5台以上の並列運転が可能か実験・・・と行きたかったのですが、そんなに沢山は社内に借りられるものがありません。仕方がないので、インターフェース回路のみ10台相当準備して、通信ができるか確認してみることにしました。
結果あっさりと10台をクリア。20台くらいまで行けそうな感じです。結構苦戦するかと思っていたので、拍子抜けでしたが、まずは幸先よくハード改造なしで並列運転できることが分かりました。
ここで1stステージクリアって感じです。

次にファームを9台まで対応する必要があり、ソフト屋さんに変更を依頼をしました。これも少し時間がかかるかと思っていたのですが、並列台数の箇所を変えるくらいで済んだようで、あっさりと完成です。
発振対策は、物を作って動かしてみないと分からないので、後回しにして、次は機構の検討に入ります。機構は前年度に作ったPBZ大容量版と同じく、19インチラックに入れるのではなく、もっとコンパクトなスマートラックにすることになりました。

また、今回のキモである(2)お客様が間違えないで配線できる仕組み、を考えます。そして考え付いたのが、端子台に接続するショートバーの付け替えで、単相2線、単相3線、三相3線、三相4線の切替えを行う構造です(以後、切替板)。イメージを機構屋さんと打ち合わせて、とりあえず6KWモデルから設計してもらいました。ここからは結構時間がかかりました。機構屋さんと何度も打合せをし、間違えないで配線できる仕組みを作っていきます。

お客様が行うケーブル接続があるので、間違わないようにシルク表示に色を付けてみたり、配線や装置の設定が一目でわかるように表を作ってシールで表示。切替板(アタッチメント)をどの位置に取り付けると、どの配線になるか一目でわかるように目印をつけたりしました(写真3)。また組配やメンテナンスのことも考え、配線が大量に集まる切替板の取り付け箇所を簡単に触れるように、そこを扉で開く機構にしました。
何度か作り直して、課題をクリアしていき、ようやく切替板の機構が完成。機構屋さんには同じ切替板の仕組みで残りの3KWモデル、9KWモデルの製作をお願いし、ようやく出来上がった6KWモデルの筐体で電気的な評価に着手です。

入力端子部

写真3 入力端子部

ドキドキの火入れ(電気評価)

一連の組み上げ作業が終わり、いよいよ火入れ(電気評価)です。ここは楽しみであると同時にドキドキの瞬間でもあります。机上検証では問題がなくても、動かなかったり、場合によってはデバイスを壊してしまうことだってあります。この辺りの経験がノウハウ(伝わりにくい価値)の源泉でもありますね。
今回の電気評価で一番気になるのは、やはり並列台数を増やしても性能が出るのか、発振等異常な動作が起きないのかです。かなり不安はあったのですが・・・

しかしそんな予想を裏切って、特に問題なく普通に動きました。50Hz、60Hzという低周波だからなのでしょうか。すばらしい安定性でした。あとは淡々とデータ取りを進めるのみです。初期の設計検証もそうでしたが、改造等で手を入れてもしっかり動く製品というのは、もとの設計がきちんとなされている証拠でもあるのだなと、あらためて思いました。開発した先輩に感謝です。
そして続いて、3kWモデル、9KWモデルの設計も終え、仕上げとして取説屋さんに分かりやすい取説を作成してもらい、無事完成となりました。

開発期間は、2013年4月スタートで、2014年1月に特注で6kWモデルを初出荷しているので、約9か月。特注品の場合、新規設計で4〜5ヶ月くらいなので、それから比べるとゆっくりしたペースですが、この設計・評価している間にも他の仕事を並行して進めているので、内実はかなり大変でした。

出来栄えはどうだ

完成した製品を使ってみると、ネジの開け閉め箇所が多く、それなりの手間はあります。しかし切替板の機構のおかげで、誰でも正しく、考えることなく切替えができて、手前味噌ながらこれは便利だなと感じます(写真4)。社内では他部署の課長さんに絶賛してもらったり、お客様からの評価も上々との話も聞きました。

写真4 切替板(アタッチメント)

写真4 切替板(アタッチメント)

ちなみに、内緒ですが(笑)、現時点(2017年7月)までのPCZ-A SRシリーズの出荷セット数は約20です。今も引き合いを相当数いただいているようです。ありがたいことです。
ものすごく高度で、精緻な技術を投入した「ザ・ソリューション」という感じの製品は、もちろん凄いです。一方で、一見普通で地味なんだけど、使ってみるとじわじわ「良さ」が滲み出るような、このスマートラックのような製品も、立派に「ソリューション」ではないかと思うのです。

開発当初は「いったい誰が使うんだ?」という雲をつかむような開発企画と思いましたが、いまは担当して良かったと思える製品で、愛着のある製品になりました。交流電子負荷装置は昨今需要の多いパワコンの評価には必須の試験器です。お使いいただければ、開発者として嬉しく思います。
よろしくお願いいたします。

新垣

執筆者: 新垣

[主な製品開発実績]PBZ-SRシリーズ / PBZ-BPシリーズ / PCZ-SRシリーズ / 過渡サージ試験器/電源変動試験器 / 特注試験システム

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