キクスイで特注品(ソリューション製品)の世界に足を踏み入れてうん十年。様々な製品に関わると同時に、失敗も積み重ねてきました。今でこそ、後進に教訓めいた物言いをする私ですが、それは過去の手痛いトラブルがあればこそ。私の半分 […]

コラム

トラブルも神様の贈り物

掲載日-2017年12月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

キクスイで特注品(ソリューション製品)の世界に足を踏み入れてうん十年。様々な製品に関わると同時に、失敗も積み重ねてきました。今でこそ、後進に教訓めいた物言いをする私ですが、それは過去の手痛いトラブルがあればこそ。私の半分以上はトラブルの経験で出来ていると言っても過言ではないです。

トラブルというとネガティブなイメージがありますが、難局を切り抜けた経験は宝です(その時は辛いですが)。怠惰や不注意でのトラブルは論外ですが、真摯にやったにもかかわらずトラブルに遭遇した場合、それは「神様の贈り物」。そう受け止めるのがいいかと思います。というか、そうでも思わないとやってられません!(笑)
ということで、私が新人時代に貰った神様からのプレゼントのお話をしたいと思います。

初めて任された大型システム

これは新人時代に、初めて大きなシステム(数十chの電源システム)を任された時のお話です。システムは同じ電源を数十chというものではなく、電圧・電流の仕様も様々、出力形式も直流電源・バイポーラ電源・極性切り替え電源(※1)と十数種の電源を1台〜数台ずつ組み合わせた電源システムでした。お客様のシステム全体では100チャネル規模で、当社はその一部を請け負うというものでした。

お客様の仕様の主なポイントは、「①定電流モードで使用し、安定度が良いこと」「②電流の設定・モニター類は、電源の出力と絶縁されていること」でした。
私は、お客様のコントローラとのインターフェース部の設計と全体の仕様と設計をまとめる主担当をまかされて、数人の課員と手分けをして設計を進めていきました。
それまでの経験から、安定した「基準電圧」「誤差増幅器」「電流検出器」を組み合わせていけば良いと、設計作業を進めていきました。そして、部品を発注し、組立・配線を行い、火入れ調整に進んだタイミングで問題が発生しました。

※1:直流電源の出力極性をリレーなどで切り替えられるようにしたもの

原因は気軽に選んだ「絶縁アンプ」

データ取りを始めた現場から連絡が入りました。電流設定値に対して出力電流の安定度の性能が出ていないと。そこで各部の電圧を確認すると、安定していなければならない基準電圧が動いていました。犯人は、お客様のコントローラと電源の間に入れたインターフェース部の「絶縁アンプ」でした。

当時の私は絶縁アンプの使用経験が無かったのですが、先輩が使っているから大丈夫と普通のOPアンプと同じつもりで採用しました。そこであらためて絶縁アンプの仕様を見ると普通のOPアンプに比べて、オフセットが大きく、また、温度特性も少し悪かったのです。
さらにアンプの個数を減らそうと、絶縁アンプにゲインを持たせて使用していたためにオフセットもゲイン倍され、それも安定度を悪くする一因になっていました。先輩が使っているから大丈夫だろうと、実は自分で素子の仕様を確認していなかったのです。初歩的なミスです。やっちまいました。

早速、手直しです。対策は「①絶縁アンプを安定度の良いグレードのものに変更」「②絶縁アンプはゲイン1で使用」「③ゲイン用のOPアンプは絶縁アンプの前段にする(絶縁アンプの入出力を高い電圧で行うことでオフセットの影響を小さく)」です。
課員全員の応援をもらい、数十チャネル分の手直し改造を行い、なんとか納期に間に合わせることができました。大反省すべき失態でした。

次の贈り物は原因不明のハンチング

規模の大きなものになりますと現場での立ち上げ、動作確認、立ち合いが行われます。
このシステムでも数日間の作業を数回に分けて、現場搬入から動作確認、立ち合いまでを行いました。「仕事は、段取り八分」と言いますが、作業要項・試験要項などの事前準備をしっかり行っていたことで、ここでは特に大きな問題も無く終えることが出来ました。

私としては大きな仕事が終わり、ほっとしてやれやれというところでした。しかし神様はこの後にも新たな贈り物を用意していました。お客様からトラブルの連絡を戴いたのは、納入完了数カ月後でした。症状は「出力が不安定になり、電源から異音がする」というものでした。

とりあえず症状を確認し、原因を検討するために現場に急行します。トラブルが発生する電源は、シリーズレギュレート方式の直流安定化電源でした。症状はハンチング(※2)の発生です。ハンチングは出力電流の増減に関わらず起きるようで、再現性が低く症状が一定していませんでした。

そこでできる対策として、位相制御の誤差増幅器の調整を行ったり、各部の波形を観察した結果、AC入力ラインからトリガとなるようなノイズが侵入し、原因となっているようだということがわかりました。お客様のシステムでノイズを発生するものが無いか確認しましたが、ノイズを発生するものは無く、トラブルが起きているのは当社の電源だけなので、早く対策するようにとの要望でした。

※2:シリーズレギュレート方式の電源は、位相制御形プリレギュレート部とシリーズトランジスタ部で構成されています。ハンチングは、この位相制御形プリレギュレート部の動作が不安定(発振)になることを言います。間欠発振すると、チョーク、トランス、などから異音が発生します。(当社ホームページ「ナレッジプラザ 電源の基本原理について」もご参照下さい)

真犯人は他にいた

上司に相談し、AC入力ラインにフィルターを追加することを試み、フィルターの定数をいろいろ変えてみましたが、なかなか決め手となる定数が見つけられません(当時小電力用のフィルターは市販されていましたが、大電力用は手作りでした)。
部材を手に入れては、対策を試みることを繰り替えし、トラブル対応の訪問回数も既に3回。なかなか解決することが出来ず、納入から半年近くが経過しており途方に暮れてしまいました。ときに神様の贈り物は過酷です。

しかし幕引きは突然やって来ました。次回の訪問の準備をしている時、お客様からトラブルが解決したとの連絡が。原因は、お客様のシステム内にある他社製の大電力パルス発生用電源がノイズ源であるとのことでした。トラブルは当社だけでなく、お客様のコントロール系の機器も誤作動を起こしていたので、お客様でも原因の検討を行っておりました。

トラブルは、原因となる電源と同じAC入力・アースラインを共有している機器で発生しており、芋づる式になっているアースラインにも原因がある様でした。お客様は、原因となる電源のAC入力・アースラインを独立して敷設し直しました。また、誤作動が発生しているアースラインを改善した結果、二度とハンチングは発生しませんでした。

結局、原因は他社製の電源ではあり、対応のための数ヶ月間の私の労力は意味がなかったわけですが、製品設計においてアースとコモンが大事な要素であることを認識する良い経験となりました。

さて、まもなくクリスマスです。
サンタクロースは大人になると来なくなります。
しかしこの神様のプレゼントは、どうやらそういったことはないようです。
なぜなら・・・私のところには毎年何かが贈られて来るからです(笑)。

来年はもう遠慮したいな。
私の引き出しの中は宝でいっぱいですよ・・・。

執筆者: 板垣

[主な製品開発実績]直流安定化電源PALシリーズ、PAK-Tシリーズ / 特注交流安定化電源システム/特注充放電電源システム / 特注電子負荷システム/特注バイポーラ電源装置など

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