昨今、カセットテープやフィルムカメラといった、アナログテクノロジーが復活するニュースを耳目にします。この流れに乗って、シリーズドロッパ方式の復権を企みたいアナログ電源の求道者こと、高橋です(笑)。
さて、今回も私の「ひよっこ」時代のお話です。年末の恒例行事といえば大掃除ですが、毎年大掃除を迎える時期に思い出す出来事があります。それが「相回転(そうかいてん)」にまつわる失敗談です。
シリーズドロッパ電源の効率改善
かれこれ25年以上昔の話になります。そのころはまだ、スイッチング電源が主流ではなく、試験用直流電源としてはシリーズドロッパ方式が全盛。そして当時の設計課題のひとつに「出力定格以下での効率改善」がありました。トランスの出力をそのまま使えば、力率は良いのですが、低い出力電圧時に、制御トランジスタにかかる電圧が大きく、損失が大きくなり、効率が悪くなります。
出力電圧や入力電圧の変動に影響されず、制御トランジスタにかかる電圧を一定最小限にして、損失を抑えるよう制御するのが位相制御回路ですが、導通角を狭めて電圧を下げるため、低い電圧では、力率が悪かったり、高調波電流が流れたりします。制御トランジスタの損失が一定であれば、トランスの出力電圧は、フルに使った方が良いのです。
移行型三相フルブリッジを試案
古の先人たちは、トランスの電圧がフルになるように、トランスのタップを切換えて、段階的に力率を良くしたり、トランスの出力に合わせて整流方式を変えて、段階的に電圧を変えるなどの手法を取ってきました。そこからヒントを得て、私は移行型三相フルブリッジの位相制御を検討することにしました。
三相の位相制御を、電圧の低い時は相電圧を使った三相ブリッジで整流し、電圧が上がってきたら、三相ブリッジを全導通させて、OFFさせていた下側のSCR(サイリスタ)を動かして、線間電圧を制御するフルブリッジに移行する回路です。設計は順調に進み、(図1)の消費電流グラフのように、中間域の出力電圧に対する効率改善を確認できました。
図1 消費電流グラフ
新年の仕事始めで2倍の電圧が!
考案した方式の目処が立ち、気分良く年末を迎えました。大掃除で試作機の配線を外して、作業所やデスクも掃除。納会を終えて、そして新年を迎えました。
会社行事の初荷のあと、試作機の電源配線をし、試験の再開です。ところが年末順調に来ていたはずが、いきなり想定の2倍の電圧が出ました。いったい何が起きたのかわからず、正月気分が一気に飛びました。
原因は大掃除で配線を脱着したことにありました。大掃除で配線を外すまでは、試作機の端子と入力相(U、V、W)の結線は一定で、相の組み替えは行っていなかったのです。いわゆる「相回転」というもので、U相の電圧信号で、V相をドライブすると、U相は、0VでもV相は、120°位相が進んでいるため、フル近くの電圧をドライブすることになります。
三相入力の電源は、入力の配線と位相制御するSCR(サイリスタ)、SCRをドライブするゲートパルスの関係が一致していないと、位相制御がリニアに動かず、電源を入れた途端、フルの電圧に上がったり、定格電力を取ろうとしても位相制御が逆に働いて、電力不足になったりします。
試作機ではこういった入力の「相回転」を全く考えていませんでした。この出来事から、相電圧から線間電圧に移行するトリガになる「ゲートパルス」の作り方をよく考えないとまずいなという教訓を得ました。また対策として、相電圧を検出して、相が違うと出力をOFFさせる回路の追加が起きてしまいましたが、これが納入後の客先でなくて良かったと、つくづく思いました。
大掃除はリセットでもある
さて、みなさんの職場での大掃除はいかがでしょうか。立て込んでくると「暮れも正月もない!」というブラックな状況もありますが、大掃除は「リセット」のいい機会です。職場がキレイになれば気分もいいですし、のめり込んで見えなくなっていた「穴」に気づくこともできます。 あらためて言うほどのことでもありませんが、単なる清掃と思わず、大掃除は仕事の「リセット」でもあるとして、きちんとやりたいものです。