コラム

手作業が最強

こんにちは。昭和のアナログ職人、高橋です(笑)。 さて、私も定年が近づいてきましたので、このコラムも最後になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。 さて今回のお話は「束線(そくせん)」についてです。 束線のメリット […]
投稿日-2018年4月

 

こんにちは。昭和のアナログ職人、高橋です(笑)。
さて、私も定年が近づいてきましたので、このコラムも最後になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。

さて今回のお話は「束線(そくせん)」についてです。

束線のメリット

長いこと電源装置に携わってきて、これぞ職人技だなと思ったことのひとつに、配線をまとめる作業があります。この作業を「束線(そくせん)」といいます。電子機器内部に配置された電子部品や基板同士を繋げるには電線が必要です。それが数本なら、さして手間はありませんが、通常は数十本以上を網の目のようにあちこちに(正しく)繋げる必要があります。これを一本一本やっていたら、労力がかかることはもちろん、一定の品質を維持することが非常に困難です。そこでその解決法が束線という下作業なのです。

束線は、まずA1サイズぐらいの板に釘を打って、配線の長さや分岐点を示す路線図のようなものを作り、それを利用します。パチンコ台のような感じです。束線図という青焼きされた紙(複写機の普及前は建築図面等で使われていた青写真<ジアゾ式複写>が主流でした)を板に貼って、行先、出先、経由のポイントに釘を打ち、束線表に書かれた、線の種類と行先、経由、出先に従って線材を引き回します。

束線図に従って線材の引き回しが出来たら、次は結束です。蝋引きの糸を使って線材を束ねていくと、最初平面的に置かれていた線材の束が、結束していくに従い形を変えてやがて立体的になっていきます。なお蝋引きの糸は、燃えるといわれて、やがて蝋なしのタコ糸に変わっていきましたが、蝋があった方が、はるかに作業しやすく出来栄えもきれいでした。古の職人は経験から蝋引きが最善と考えたのでしょう。その点は、非常に残念に思った記憶があります。今はタコ糸も燃えるというので、難燃性のSKバインダーになっています。しかしSKバインダーだと出っ張りが出て、筐体にきれいに沿わせにくく、見た目もスマートではありません。蝋引きの糸のような新素材の登場を期待したいところです。

さて、束線のメリットは、引き回しの形が固定できるので、作業者によって品質が左右されにくいことだと思っています。また自分でやってみてよくわかりましたが、引き回しの仕方で寄生発振が無くなったり、ノイズが減ったりします。過去の先輩たちが残した仕事において、束線は単なるまとめ作業ではなく、時間をかけてベストな引き回しを選んでいたんだと感心しました。

ワイヤーキットの普及がもたらしたこと

昨今は、ワイヤーキットで基板から基板への時代となっています。しかしワイヤーキットが長いと引き回しが人によってばらつくので、中々同じようには組めません。なのでワイヤーキットをまとめる(束線する)ことをしたりします。また束線とセットになっている作業が半田付けです。しかし半田付け作業もコネクターを使用して、なるべく手作業をしない方向に向かっています。
何十年も現役で使われている電源を見る機会があります。そういった製品の内部を見る度に、もし自分が買うとしたら、ワイヤーキット化された製品より、束線で半田付けされた製品だなと思います。しかし、メーカーの製造現場やサービスからすると、作業効率性からワイヤーキットが選択されます。モノづくり(とりわけ大量生産品)において、手作業を排除するベクトルはもう変えようがないのかもしれません。

一定の品質の製品を安く作るには、作業の効率化は必要でしょう。しかしそれは結果的に製品の「使い捨て化」を加速してしまったようです。もちろん修理はできますが、昨今は部品入手等の事情で、生産終了後のサポート期限を設けるのが普通になりました。なので所有者が希望しても修理できないというケースが起きてしまいます。
また不幸にしてメーカーが倒産してしまったら、サポート期限内でも修理は不可能。あとはもう廃棄するしかありません。ある時から電気製品は、購入後も所有者のものではなく、その生殺与奪(せいさつよだつ)を製造者に握られたままになってしまいました。

最強にして最後のツール

そういった状況をどう評価するかは意見が分かれそうですが、私は正直しっくりきません。作って使って壊れたら(手が出せないので)おしまいという物だらけの世の中は、なんだか味気ない気がします。エコだからという理由だけでなく、もったいなくて、またどこか危険な感じもするのです。ソフトウェアの世界でこんなケースがあります。あるアプリのフォーマットで作った文書ファイルがあるが、そのアプリのベンダーが倒産してしまった。さらにOSがアップデートした際にアプリが起動できなくなり(アップデートもできない)、結局ファイルが全て使えなくなってしまった。そうなると、特定の環境に依存しないフォーマット(例えば「.txtファイル」)が最強ではないか、という話です。

モノづくりにおいて、私は手作業が「最強にして最後のツール」ではないかと思っています。多く電気製品が使い捨てになってしまうのは、致し方のないことでしょうが、手作業という最後の切り札が使える電気製品があってもいい。というか必要なことではないかと思うのです。
なので、これからモノづくりに携わろうとされる若い皆さんには、ぜひそういった観点も持っていただけたらと思うのです。モノづくりは作って終わりじゃないんです。そのあとどれだけ長く(愛されて)使えるか。そこが本当の勝負所だと思いませんか?

手作業という価値

さて最後に、束線の話に戻ります。最近はやはり需要が減り、束線を作る業者さんも高齢化で廃業する例があとを絶ちません。ほんとうにそれは大変残念なことです。働き方改革という世の動きがありますが、そこで生産性向上とともに、こういった「手作業から生まれる価値の見直し」などもあって欲しいですね。手で作られたものは手で直せる。当たり前のことのようですが、これからの時代それが製品の価値として再評価されるのではないか、と思うのです。

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高橋

執筆者: 高橋

[主な製品開発実績] 直流安定化電源PAN-Aシリーズ、PAD-LAシリーズ / 特注直流電源、特注直流電源システム / 電子負荷システムPLZ-4W SR/LPシリーズ、PLZ-5W SRシリーズ /

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