月日が経つのは早いもので、還暦を超えてしまいました。でも、諸先輩方から見ればまだまだ若造です。しかし寄る年波は押し寄せております。体力の維持のため、オフは竹林伐採ボランティアにいそしんでおります、板垣です。
さて、長年特注・改造品にかかわっていますと、時々「目的は何?」とか「えーっ!」と思うような珍しい仕事が舞い込みます。特別注文ですから、技術的に可能かつご予算が合えば出来ないことはないわけですが(本当?)、その(真の)目的が明かされないまま、技術要件のみで製作する例があります。
このコラムでは、そのような珍しいお仕事を「特注奇譚(奇譚=珍しい話)」として(守秘義務に注意しつつ)いくつかご紹介して参りますので、よろしくお願いいたします。
さて1回目は、20年ほど前に関わった「シリコーンレス電源」です。
シリコーン抜きでお願いします
ハンバーガー屋さんの注文の仕方に「ピクルス抜きで」というのがありますが、そんな感じでしょうか(笑)。ちなみに「シリコン」と「シリコーン」は似ていますが別物です。「シリコン」は半導体の材料(ケイ素:鉱物)ですが、「シリコーン」はケイ素と有機化合物を結合させた化学物質(ゴムや樹脂、オイル)です。シリコーン素材から発生するガスが「ユーザーの何かの妨げになる」という理由での改造依頼でした。
そこで、直流電源に使われている次の様なシリコーンを取り除き、別のものに置き替えました。
- 熱伝導性シリコーングリース
- シリコーンチューブ
- シリコーンシート(絶縁材)
半導体はシリコンで出来ていますが、代替できる物がないので(くどいですがシリコーンでもないので)そのまま使わせていただきました。
ご注文(改造)の台数が少なかったため、ロットを起こして一からの製作ではなく、倉庫の在庫品(新品)を分解して、シリコーン部材を置き換え、組み立て直して、再度調整・データ確認検査の手順を踏みます。手間のかかる作業ですが、お客様のニーズに応えるのが歓びですので。
当時、一番困ったものがシリコーンが入っていない熱伝導性のグリースの入手でした。一般では出回っておらず、NASAか米軍向けのものを入手し使用した記憶があります。10㎝ほどのチューブ入りで¥10,000もしたので、無駄使いをしないように、またリピートを考えて大事に保管していました。
20年後の謎解き
この記事を書くために、あらためて調べたら、今では「シリコンレス」「シリコンフリー」と検索すれば容易に入手できるので、驚いています。ちなみにシリコンレスやシリコンフリーだとシャンプーの方がヒットしますので、「素材、部品」を追記した方が良いと思います。しかし世間はシリコンとシリコーンをあまり区別なく使っているようですね。違うんだけどな・・・。
さてこの「シリコーンレス電源」のご注文の真意が当時わからなかったわけですが、20年後の今、「これが理由だったのかも」と思った事象があります。それは「低分子シロキサンによる接点障害」です。20年前は判らなかったのですが、シリコンから発生する「低分子シロキサン」がリレーなどの接点障害の原因になりうることが、近年知られるようになりました。
メカニズムは、「低分子シロキサンが接点に付着」⇒「接点間で火花」⇒「火花で酸化」⇒「二酸化ケイ素(絶縁物)として接点に付着堆積」⇒「接点障害」、であります。この特注電源は、客先のシステムに組み込まれるようでした。そこは長期に密閉された空間で(つまり換気がない?)、接点不良を起こす原因(つまり低分子シロキサン問題を知っていた?)を排除しなければならなかったのでしょう。たぶん。
いったいどんな極秘?システムだったのか。いまは知る由もありませんが、こういった「ミッションインポッシブル(?)」に関わるようなご依頼をいただくのも、特注品仕事の醍醐味です。