私の現在の仕事は「製品の取り扱いに関する技術サポート」がメインです。その仕事をこなすには当社のソフトウェアやハードウェアに関することだけでなく、各種規格や業界用語といったことを広く知っていないと、様々な問い合わせに対応することができません。
しかしながら、もともと私は機械工学科の出身で、偏差値34(!?)という低スペック脳みそ搭載です(笑)。なので、電気やソフトのことを聞かれたら「機械工学科なのでわかりません」と答えても良さそうです(一回言ってみたいものです・・・)。しかし現在は、計測器の通信関係やソフトウェアに関する問い合わせに加え、電源高調波やEMCに関する問い合わせ、特注品の回路設計支援に至るまで幅広く対応させていただいています。
そこで今回は、畑違い(機械工学科)の私が電子工学の仕事ができるようになった方法、つまり「どうやって知らないことをわかるようになれるのか?」についてお話したいと思います。日々の仕事での中の会話の一つに「私は文系なのでわかりません」(なんじゃそれ!)というのがありますが、「わかる」の基本原理においては、文系・理系は関係ありません。ぜひ困った時の常備薬的に覚えておいていただければと思います。
なおここでのお話は、脳科学的にとか認知心理学的にといったものではなく、あくまで私個人の経験に基づく論考になります。あらかじめご了承のほどお願いいたします。
わからないは「何」がわからないのか
例えばこんな質問が来ます。
「おたくの”整流器”は”上位”の”PLC”から”シリアル”で制御できますか?」
この質問にどう答えればよいか、皆さんはとっさにイメージできますか? 私もいきなりこう聞かれたら、以前なら「さて、どう答えよう?」となりましたが、今は何とかなります。しかし、わからない人はずっとわからないままで「当社ではできません」と答えてしまうかもしれません。さて、この差は何でしょうか?
この質問をよく見ると「わからない言葉」が混じっていることに気づきます。この質問には「整流器」、「上位」、「PLC」という専門用語らしきものが含まれています。これらの用語が意味するところが分かれば、この質問の意味がわかるのですが、「わからない」という人の多くはこの段階で挫折してしまうようです。つまり「わからない」ということは「わからない”言葉がある”」ということなのです。ここをクリアすれば新しい世界のドアをあけて次の世界に行くことができます。
わからないの3大原因
もう少し「わからない」が起きる理由に踏み込んでみます。
- (1)わからない言葉がある
- (2)質問を分解せずに「丸呑み」で理解しようとする
- (3)「俺の仕事じゃない」と思っている
以上が「わからない」の3大原因ではないかと考えます。
(1)わからない言葉がある
前述した通り、これが最初で最大のハードルです。わからない言葉(用語)があったら理解できないのは当たり前です。言葉(用語)さえわかればたいした問題ではない、ということは多々あります。その解消方法は下記でしょう。
まずは「質問者に聞く」ことです。一番簡単なのですが、心理的に(恥とかプライドとか立場とかで・・・)難しいと感じる人が多いかもしれません。「すみません、整流器ってどのようなものでしょうか?」と聞けば、「ああ、おたくのPMX18-5Aとか書いてあるやつだよ」と教えてくれるはずです。この聞き返しだけで「整流器」は「当社の直流電源」を指していることがわかりました。あとは同じように聞いていけばOKです。「PLCとは・・・?」「シーケンサのことだよ。三●の」とか。わからないときは恥ずかしがらず相手に聞くのが早道です。
さらに、会話の中で言葉の意味がわかったら、ぜひ理解を強化しておきましょう。Google先生に、会話中のキーワードを入れて検索すると、メーカのページを含むさまざまな情報が見つかるはずです。ヒットしたページをざっと眺めてみると、今まさに自分の理解したいことが書いてあるページがあったりします(ありがたいことです)。そうしたらしめたもの。最初のうちはわからなくても、少しづつ情報に近づいていくと思います。
こうあらためて書くと、至極普通のことなのですが、意外とやらないものなのですよ、これが。対応が済んだらそこで終わり(やれやれお茶でも飲むか・・・)。記憶が鮮明なうちに「復習」することが、あなたの財産になります。ぜひ習慣化してみてください。
(2)質問を分解せずに「丸呑み」で理解しようとする
これも非常によくあることです。言葉(用語)の理解を飛ばして、質問を「丸呑み」して咀嚼しよう(答えを出そう)とします。しかし言葉(用語)の理解を飛ばしてしまったら、答えは出ようがないですね。やはりここは一歩一歩、わからない言葉をなくしてゆくことが早道です。ひとつひとつ調べていけば、たいていのことは何とかなります。
(3)「俺の仕事じゃない」と思っている
実はこれが一番で、かつ自覚されない原因かもしれません。
勉強しても勉強しても、いっこうに覚えられないということがあります。頭のどこかで「俺の仕事じゃないや」という気持ちがあると、脳みそが理解する行為をやめようとするようです。つまり当事者意識の問題です。当事者意識がないままに、丸暗記しようとしても無理な相談です。学生時代、数学や理科など「何の役に立つんだ!」と思っている科目は成績悪かった記憶はありませんか?
「文系なので」とか「専門が違うので」という言い訳もまさにそれです。文系だから技術的なことが理解できるはずがない、専門が違うのだからわからなくっても当然。無自覚にそう思っていたら、いつまでたっても「わかる」ことが増えないのではないかと思います。どうやっても「覚えられない」時は、その辺もチェックしてみるといいかもです。
おすすめは仲間を作る
かくいう私も、なんだかんだ言って覚えられないことは多いです。そんなときは、一人で無理にやろうとせず、「得意な仲間と一緒にやる」ようにしています。人間が一人でできることには限りがあります。自分ができない部分について素直に助けを乞うことは、恥でもなんでもありません。そしてそのかわり、自分の得意分野については、ちゃんとお返しできるようにしておきたいものです。
「わかる」が増えると、仕事が格段に進むようになります。あたりまえのことかもしれまんせんが、その辺りのことをあまり考えずに、日々の仕事を流してしまう人(やれやれお茶でもするか・・・)が、少なくないように思います。そんな感じでただ年を重ねてしまうと、いつしか「残念なベテランさん」になってしまいます。 「わかる貯金」には裏技がありません。ひとつひとつ、コツコツが王道です。日々の積み重ねが財産になります。ぜひ実践してみて欲しいと思います。