POWERアンプの放熱器を検証する

コラム

放熱器選定のリアル(ヒートシンク の選定)

掲載日-2019年4月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

はじめまして、ソリューション開発課の武者と申します。名前は勇ましいのですが、本人はいたって温厚な、ごく普通の人間でございます。本稿がコラムデビューとなります。どうぞよろしくお願いします。

さてこの話は、一筋縄ではいかなかった放熱器選定作業についてです。
とある仕事で、POWERアンプの放熱器を検討することになりました。使用するPOWERアンプは、電流40A 電力400Wのかなり大容量のアンプです。
このアンプを使って200Wの放熱が可能な放熱器の検証をすることが、私のミッションです。

放熱器選定の条件

放熱器にはアルミニウム合金のフィン付き ヒートシンク を採用します。以降放熱器を ヒートシンク と呼びます。取り付け箇所に制約があり、その高さ制限は40mm程度。FANを使った強制空冷を併用して、POWERアンプの内部損失200W分を放熱させなければなりません。
実現すべき状態としては、周囲温度25℃において、POWERアンプのケース温度が70℃です。またPOWERアンプは、放熱面側にピンが付いるDIPタイプで、大きさは40mm×40mm。形状がやや変則的で、取付方法でも悩まされることになりました。

ヒートシンク を選定する

消費電力、ジャンクション−ケース間熱抵抗、ケース− ヒートシンク 間熱抵抗、アンプのジャンクション温度、周囲温度をもとに ヒートシンク の熱抵抗を算出します。FANによる強制空冷も絡んできますので、冷却風による特性データも合わせて見ながら汎用品の ヒートシンク を選択しました。

そして、幅202mm×奥行き200mm×高さ30m、ベース厚5mmの ヒートシンク を選びました(図1)。

図1

POWERアンプを取り付け、吐き出の方向にファン4個を並べ、電力を印加します。電力を徐々に増やしていったところ、100W程度でPOWERアンプのケース温度は70℃近くまで上昇してしまいました。
そこで風量を増やし静圧を上げたいと考え、反対側に吹き付けの方向でファンを4個追加してみました。同じように電力を徐々に加えていったところ、120W程度で、70℃程度まで上昇してきました。

ここで、 ヒートシンク の温度分布を確認してみました(図2)。POWERアンプ付近のみに温度上昇があり、熱がうまく拡散できていないことがわかりました。

図2 発熱部温度からの周囲温度差分布

さらに熱の拡散を促すために、 ヒートシンク に、熱伝導率の高い銅版を放熱グリスを用いて貼り付けてみました(図3)。銅板の追加により、30W程度改善することが出来ましたが、それから先の進展で煮詰まってしまいました。

図3

図3

厚みが効く!

そんな折、同僚から、ベースの厚みを増やしてみてはどうかと提案を受けました。そこで高さ制限ギリギリになってしまいますが、ベースの厚みが10mmの汎用品 ヒートシンク を用意しました。
幅154mm×奥行き200mm×高さ30m、ベース厚10mmの ヒートシンク です(図4)。

図4

図4

面積が少なくなったので何か影響は出ないかと不安に思いましたが、電力を印加してみると、200Wの印加で70℃程度に収めることが出来ました。ベースの厚みが熱を拡散してくれたようです。
発熱部分が狭い範囲に集中するような場合には ヒートシンク の面積を広げるよりも肉厚を増した方が効果があるということでした。ベースの厚み5mmの増加だけで、ここまで大きく変わるとは思いませんでした。

この事に限らず、机上計算の設計と現実の乖離は、わかっているつもりでしたが、あらためてそれを実感する経験になりました。とりわけこういった熱設計は、電子機器において重要な仕様です。「仕様書上は大丈夫なはず」は危険です。予備実験等で現物確認は必須ではないかと思います。

なお、本件の実物は下記のようなものです(写真1)。ご参考に。

ヒートシンクを選ぶ

写真1

執筆者: 武者

[主な製品開発実績] 交流電源システム / 急速充電システム / 定電流電源システムなど

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