白熱するADAS(先進運転支援システム)開発を視点に
波形編集ソフトから電源テスト統合ソフトウェアへのロードマップ
ADASとクルマの電源ライン
自動車電装系のテストソリューションですか
<渡邉>ご紹介するのは先端電子技術を搭載したクルマの開発や生産のための電装系テストソリューションです。
今、クルマの先端電子技術と言えばADAS(先進運転支援システム)が一番ホットで世界中のメーカさんが技術を競っていますよね。
ADAS搭載車には高度な信頼性が要求されることもあって、センサや解析制御のソフトウェア技術など様々な切り口から技術開発が進行していますが、私たちが注目しているのは電装系、クルマの電源の進化です。
クルマの電子化、電動化という大きな流れの中でクルマの電源系はどんどん複雑化してきました。電装品の種類が増えれば、それぞれにつながる電源ラインが必要になるからです。
それがADASなんかでは、電子回路とセンシング機能だけでなく車両電源も二重化して冗長性を持たせ、どんな時もシステム停止することなく動作を継続させる仕組みを持つようになってきました。
元々、クルマにはイグニッション(IG)、アクセサリ(ACC)、バッテリ(+B)、イルミネーション(ILL)など複数の電源系統があったわけですが、ADAS搭載車ではプラスBラインが複数あるんです。
そんなわけで、クルマの電源はどんどん系統が増えて複雑化しています。当然ながら、確認試験も複雑化することになります。
具体的にはADASの時代になって電源側も負荷側も数が増したことでこれまで以上の多チャネル対応が必要になってきています。
電源テストも複雑化
高信頼電源系への対応というわけですね
<渡邉>電気機器の電源テストというのは、電源に変動を与えて負荷の動作を確認したり、負荷の変化を模擬して電源側の動作を確認したりすることです。
クルマの場合は電源側も負荷側も複数系統あり複雑に組み合わさって動いているので、テストシステムも複数系統に対応した多チャネルの電源や負荷装置で構成する必要があります。私共ではそれに見合ったテストソリューションをこれまでにも多数ご提供してきましたが、ADAS搭載車ほどの多チャネルかつ複雑な電源系には対応できていませんでした。
さらに、ADASは走行中も停車中も動き続けるので、長時間のオペレーションに対する信頼性も併せて求められます。高温・高湿下での長時間エージングや、ものすごい数のパターンによるテストが必要なんです。
我々は今回、この課題をシーケンス作成・制御ソフトWavyの多チャネル同期機能強化によって解決することにしました。直流電源や電子負荷などのハードウェアはどんなご要求にもお応えできる強力なラインアップが既にありますからね。これらをうまく動かす方法を考えれば良いわけです。
制御ソフトウェア
課題解決のキーポイントは何ですか
<渡邉>私はカスタムニーズと言うより幅広いソリューションのためのソフトウェア開発をメインに担当しています。自動車電装系のテストではお客様毎に様々な測定ニーズがあって、お客様が都合に合わせてオリジナルの測定をする必要があるため、これに応えるミッションです。
幸い、キクスイには幅広い機種に対応したシーケンス作成・制御ソフトウェア<Wavy>があり電装系テストに多数の実績があります。今回もWavyの多チャネル対応強化という形で対応しました。具体的には、これまでは4〜5チャネル対応程度だったものが、今のところ7とか8チャンとかが予想されるため、10チャネル程度までを目途に開発を進めています。
電源の多チャネル化は機器の安全性や信頼性向上のためには必須の要素です。そう言う意味では、クルマのADASだけではなく、例えば航空機なんかでもトレンドですので、アプリケーション分野の拡がりは大きいと思います。
多チャネル同期
技術的に乗り越えなければならなかった点は
<渡邉>実は電源と負荷どちらか片側だけの多チャネル制御であれば、ソフトウェア的にはこれまでの延長で対応でき、それ程難しいことではありません。実際に片側に対してであれば納入実績もありますし、ハードウェア自体も例えば電子負荷のPLZ-5Wシリーズなどは自身が高速同期運転機能を備えています。
ですが、電源と負荷の両側にわたってタイミングを合わせる同期制御となると、これがちょっと難しい。
やり方としては全てをソフトウェアで賄う方法と同期のためのハードウェアを併用するの二つが考えられます。ソフトでやる方法はシンプルかつローコストで、制御対象となる電源や電子負荷のシリーズやモデルを問わないものができるんですが、同期の精度というか各チャネルのタイミングの一致度に限界があります。ハードウェア併用にすればこれを解決できますが、別途ハードでの対応が必要になります。
どちらを採るかはアプリケーションの要求精度に依存することになるので、最終的にはターゲットアプリケーションを見据えて決めることになります。
例えば、ADAS-ECU周りのエージングテストに当てはめてみると、電源側と負荷側での間ではミリセカンドオーダまでの同期精度で良いと考えられますので、ソフトウェアオンリーで対処できると考えています。
ただ、私としてはこの先どちらに転んでも良いように、ソフトオンリーとハード併用二通りの開発を並行して進めています。
ロードマップ
Wavyの進化について聞かせてください
<渡邉>Wavyが菊水電子製電源・負荷装置のシーケンス作成・操作を支援アプリケーションソフトウエアとして誕生してからかなりの時が経っています。ただ、その間Wavyに何も手を付けていなかったかというとそうではなく、時代と共に進化と成長を続けています。
時代に即して新たなものを次々開発する方法もありますが、今まであるものを育てて進化させていくというのは開発効率の面でも有利ですし、ニーズに即したものをローコストに提供できるからです。
Wavy進化の歴史と方向性をロードマップ的に述べると、当然のことUSBやLAN対応、リアルタイムモニタですとか機能拡充はいろいろやってきていて、今回の多チャネル同期対応なんかもその一環ととらえることができます。
また、当社の電源や電子負荷の中には自身がプログラム機能を内蔵していて高速に実行できるものもあります。こうした機器内部の機能を利用するというかうまく連携できるようにするというのも、ひとつの方向性としてアリだと思います。
機能の拡張と併行して、初めは特定モデルの制御用だったものが交流電源、直流電源、電子負荷と対応機種を増やしてきました。モデルを問わない汎用的な統合制御ソフトを目指して様々なソリューションのベースになる進化方向です。
その一方で、アプリを特定した派生もあります。系統模擬試験用のグリッドシミュレーター(Wavy Smart Grid Edition)なんかはその一例です。波形パターンやシーケンスも入れ込んだ専用アプリソフトみたいな展開は今後もあり得るでしょう。
Wavyが強力に進化し続けることで、我々が提案できるソリューションの種類や数も相乗的に増やしてゆけます。私自身も、これまでの知見やキクスイが持つ総合力を活かしてWavyを育ててゆきたいと思っています。