航空機特有の電源系統における電圧変動試験で
信頼と安全確保に一役
自律完結
航空機電源の概要を教えてください
<渡邊>航空機というのはエンジンの推力や油圧で制御される機械的構造物ですが、同時に多数の電気・電子機器が積まれた巨大な電子装置でもあります。さらに、飛んでいる間は外から電気をもらうわけにはゆきませんので一機の中で発電から消費までが賄われる自律完結型の独自の電気世界を構成しており、系統も何種類もあってそれらが混在しています。
具体的な系統構成は機種によって異なりますが、メインエンジンに連結した発電機を源とするACラインと通信機器や機内のエンターテイメントシステム用に変換されたDCラインとが骨格を成しています。
ACはフラップの出し入れや車輪の格納などに使われたりし、周波数は400Hzが主で380〜800Hzなど可変周波数のものもあります。DCの電圧は14V系などもありますが28Vが主です。近年では機器の軽量化を図るために270Vといった高圧のDCラインを持った航空機もあります。当然ながらDCはバッテリーバックアップされると同時に非常用にDC発電機を持つことも一般的です。
いっぽうで、駐機時には地上から電源を得たり、万一に備えて系統の相互変換や保護協調機能を持たせたりなど全体として冗長性を持ったシステムを構成しています。
<茂戸藤>航空機の電源は特殊と言えば特殊、複雑と言えば複雑な世界なのですが、実は私共電源メーカからすると電圧的にも周波数的にも特別変わったものではなく、実は通常の守備範囲なんです。
例えば、搭載機器のメーカが機器を開発・製造・評価する際には飛行機から電源をもらうわけにはゆきませんので、ローカルに航空機用の電源を得なければなりませんよね。ラボや工場内に航空機模擬の電源設備を必要とするわけです。実際、これまでにも航空機関連機器の開発や製造時用の電源として当社のACやDC電源をお使い頂いています。
飛行機も電子化が顕著
航空機の電源環境を規定する規格がいろいろあるのですね
<茂戸藤>航空機は安全性と信頼性が第一ですので、搭載される機器についても振動や衝撃、温度や気圧それに電磁ノイズなど動作環境に対して様々な”しばり”が設けられています。各電源系統それぞれについて言うと、電源そのものの品質規定がまずあり、相対して電源を使用する機器についても電圧の瞬時低下など電源異常などに対して動作を担保するイミュニティの規定があって、両者を合わせることで両立性が保たれています。
因みに航空機は複数の電源系統が連動しているうえ平時でも供給系統の切り換えや変換が行われます。機器(負荷)側からすれば電源の瞬時低下や周波数変動などが起こり易い電源から電気供給される訳ですから、搭載機器の電源イミュニティは一般の電子機器よりも高いレベルが要求されています。搭載される電子機器の数が増えていることや回路の動作電圧が小さくなっていることもEMC的にはキツイ方向に向かっていると言えます。
<渡邊>具体的には軍事用にMILの704※、民間用ではRTCAのDO160※、同じく民間用はJISのW0812※などの中に電源環境の試験規定があり、ノーマル、エマージェンシーなどのテストモードでの試験を要求しています。また、各航空機メーカでも独自に規格を設けていて、搭載する電子機器メーカに対してその規格もクリアしたうえでの納入を必須としています。
いずれにしてもテストに際してはローカルに電源異常を故意に作り出す設備を必要とするわけで、本システムはそのためのソリューションなわけです。
(※):MIL-STD-704, RTCA DO-160, JIS W0812
RTCA:Radio Technical Commission for Aeronautics
信頼が信頼を裏付ける
PCR-LEをベースにしたのには訳があるのですか
<茂戸藤>本システムはリニアアンプ方式の高機能電源PCR-LEをベースにして航空機搭載機器メーカさん向けのアプリケーションソフト(Avionics Test Software SD012-PCR-LE)を組み合わせたものです。その意味ではPCR-LEの数あるアプリケーションソフトのひとつと位置づけることができますが、我々としては新たなシステムソリューションのひとつという考えでプランを進め、お客様にご提案しています。PCR-LEをベースにした理由を一言で述べるなら、PCR-LEは航空機搭載機器テストに対応する高い能力が元々備わっているからです。
<渡邊>試験器は信頼性が重要です。例えば試験信号が信頼できなければ試験結果も信用できませんし、試験で問題が発覚した場合に原因の切り分けが難しくなります。さらに試験器自体が壊れたりたまに動作が怪しかったりでは話になりませんし、万一故障した際に修理や点検に長い日数を要するようでは機器の生産そのものに大きなダメージとなってしまいます。
航空機というものの性格上、より確かな信頼のおける測定が求められていて、規格の中にも「変動パターンや波形が規定と違わないことを確認してからテストを始めなさい」と言う旨のことが書かれていたりします。規格に合致した正しい試験器を使いなさいということなわけです。
PCR-LEはACもDCも出力できますし、周波数自在でローノイズ・低ひずみなうえに応答性にも優れているので、再現性に優れた試験信号を出力できます。一般電子機器の電源変動試験用電源として積み上げてきた膨大な実績の裏付けもあります。本システムでは必要があればインテリジェントバイポーラ電源のPBZシリーズも併用できるようにしてありますが、これも同様な理由に因ります。
<茂戸藤>実は、安価なスイッチング方式の電源をベースとすることも考えられ、実際にそのようなシステムも無いわけではないのですが、私共では何よりも測定の信頼性確保と設定の自由度さらに拡張性を重視し敢えてリニアアンプ方式の高機能電源をベースにしたシステムを提案させて頂いています。テストの前というか機器選定に際して高機能電源PCR-LEをベースにしたシステムの波形を実際に見て確かめて頂ければ、そのクオリティの高さがお分かり頂けるはずです。
1画面3ステップで完結
使い勝手の面ではどんな気配りをされましたか
<渡邊>本システムでは、”お客様が高信頼の測定をシンプルに完結できること”をコンセプトに制御ソフトウェアを開発しました。PCR-LEは出力を自在に制御できるので、パソコンから詳細なパラメータをその都度細かく設定して実行するタイプのソフトもアリというか作ることができます。ですが、実際に試験を行う機器メーカさんや航空機メーカさんの立場に立って考えると、規格試験の作業はコストや納期に直接跳ね返るものなので、できるだけ簡単・確実に行いたいんですよね。被試験機器をつないだら後はボタン一発で自動実行みたいなシンプルなものが望まれるわけです。
そうしたことから本システムでは試験パターンをライブラリとして揃えておき、それを選択して実行するスタイルにしました。こうすることでシンプルな操作と様々な規格要求に対する柔軟性を両立できます。実際、本システムではひとつの画面上で、規格を選択する、試験項目を選択する、実行ボタンを押す、という3ステップで規格試験を完結できます。
シンプルに、短時間で、高信頼のテストを実行するシステムをお届けできた、と思っています。
<茂戸藤>同時に、お客様固有の試験波形やシーケンスあるいは新たな規格条件の追加などがあっても、ソフトウェア上で簡単な変更を加えるだけで即時に対応できる柔軟性も持たせてあります。具体的にはシーケンスのステップリスト画面を編集するだけですので、お客様サイドでも簡単に追加・変更可能です。
また、お客様の中にはACとDCを別系統で同時に使ったテストをしたいという方もおられます。そうしたご要求に際しては当社のDC電源などと同期して動かすソフトが用意されていて、それらとの併用も可能です。