電子負荷のオプションとして、
インピーダンス計測機能を追加。
大型バッテリの生産やメインテナンスに寄与。
ニーズの変遷
バッテリの能力向上が顕著です
<大塚>一口にバッテリの向上と言っても、その内容は様々です。評価は充放電テストにおける端子電圧測定などが基本になりますが、能力の評価という観点では、旧くは負荷をオンオフして端子電圧の差から内部抵抗を算出していました。理想電池と直列抵抗という単純な評価です。
その後、電池の容量や性能が上がると内部抵抗はどんどん小さくなって、直流抵抗での判別や測定自体も難しくなったこともあって、1kHz程度の交流に対するインピーダンスで評価することが一般化し、標準化もされています。
一方、新型電池の開発や研究では内部の電極や電解質などの要素解析手段として、全体を抵抗一本では無くコンデンサや抵抗などが組み合わさったものとしてとらえ、外部からそれぞれの値を知るためにインピーダンスの周波数特性を求める交流インピーダンス測定なども行われてきました。複素インピーダンス(ベクトル)の軌跡を直交座標上に描いたのがコールコールプロットです。
<加々見>近年ではその応用として、インピーダンス特性測定で得られた知見を基に、いくつか特定の周波数ポイントでのインピーダンスを測定して製品の良し悪しや、内部状態などを判定するといったことも試みられるようになってきました。
実際のところ、バッテリの出荷に際しての個々の製品検査や設備されたバッテリのメンテナンス、さらにバッテリリユース時の良品選別などの現場で、手軽にかつできるだけ短時間で答えが出せる方法は無いか、という声も聞かれます。
ニーズへの対応
バッテリテスタを使えば済むのではありませんか
<加々見>スマホに載るような小型の電池向けには、交流インピーダンス測定も可能なバッテリテスタもあります。ただ、電池が大型になると対応が難しくなってくる。インピーダンスがミリオームオーダとすごく小さくなって測定信号の検出が難しいといったこともありますが、試験条件もフル充電時や放電終了時といったスタティックかつ独立した状態ではなく、特定の負荷を接続し電流が流れ出している状態でのインピーダンスを知りたくなったりするんですね。特に燃料電池などは負荷に電流を供給することで機能するわけですから、負荷状態での測定は必須です。
ところが、その場合はバッテリテスタだけでは対応できない。対応策として電子負荷と交流信号源、それにバッテリ電流と端子電圧を同期して測定できる複数のマルチメータ等を組み合わせてシステムを組むことになります。この方法は電子負荷の典型的アプリケーションのひとつではあるのですが、使用する機器の数も多いため、”手軽に”というわけにはいきません。
<大塚>システム化によるソリューションとは別に、私共では燃料電池用インピーダンス測定システム[KFM2150 SYSTEM]を提供しています。同システムは広範囲なパワーレンジに対応し10mHzから20kHzの範囲で詳細なインピーダンス測定とプロット、さらにI-V測定もできスタック用のスキャナなども用意されているので、電池の研究開発や生産技術などを担当なさっているお客様に重宝されています。
ただ、お話ししたように電池の世界では研究・開発目的とは別に電池の生産やメインテナンス現場でもインピーダンス測定のニーズがあるわけです。その場合、先の組み合わせシステムやKFM2150ではちょっとオーバースペックというか現場用としては敷居が高いきらいがあり、導入をためらっているといった声があることも確かです。ソリューションとしては完全とは言えなかったわけです。

コロンブスが落ちてきた
開発のきっかけは?
<大塚>実はある時ふっと閃いたんです。それは昼休みに当社の電子負荷PLZシリーズの設計者と話をしていたときなんです。PLZはこれまでに様々な進化や拡張を遂げてきたシリーズでして、汎用目的ではそれまでのPLZ-4Wに最新のPLZ-5Wシリーズがラインアップに加わっています。この4Wから5Wシリーズへの進化の話をしていときです。
私としてはインピーダンス測定のことが頭にあったわけなんですけれども、実はPLZ-5Wシリーズがインピーダンス測定に必要な技術要件の多くを潜在的に持っている、と言うことに気がついたんです。簡単に言うとPLZ-5Wは高速電流シーケンス機能が備わっており、高速で任意な電流の引き込みが出来る。高分解能A/Dコンバータを積んでいて、高精度な電圧や電流測定能力があることなどです。インピーダンスを測るには、電池の負荷電流に交流分を重畳させてその時の電圧と(電圧に変換した)電流を同時に測定します。交流信号源としてファンクションジェネレータを、電圧を測るのに高精度なマルチメータなどを必要としたわけですが、PLZ-5Wにはそれらを肩代わりできる機能というか性能が備わっていたのです。
だとすれば、PLZ-5Wに少し手を入れれば単体で電池のインピーダンス測定に対応できるのではないか、我々もお客様も少ない負担でこれまでのソリューションに欠けていた部分を補うことができるぞ、というコロンブスの卵というかニュートンのリンゴみたいな、ふとした思いつきが開発の出発点でした。
<加々見>そこで、実際にPLZ-5Wに手を加えてテストしてみたところ、これなら出来そうだということがわかりました。大容量の電池では複数のセルをスタック(積み重ね)して、途中のセルのインピーダンスを測りたいと言うこともあるのですが、その場合に必要な同相除去能力などもクリアできる見通しが立ちました。
PLZ-5Wは大電流までのモデルがありますので、より大型の電池にも対応できることも魅力でした。
電池というのは満充電時と放電の終期とではインピーダンスが変化します。ですので、メーカさんとしては電池を定められた量放電させた状態でのデータも欲しいわけで、このために電子負荷が使われたりもします。そもそも、電池の基本とも言える充放電テストには電子負荷が不可欠ですので、電子負荷は電池メーカさんにとってマストなアイテムなんです。インピーダンス測定に電子負荷が必要だとしても、メーカさんの新たな負担にはなりません。
それぞれの最適解へ
製品の機能拡大はユーザにとってはうれしいことです
<大塚>逡巡が無かったわけではありません。ある意味、燃料電池インピーダンスシステム(KFM2150)は社内競合しますし、PLZ-5Wに少し手を入れると言ってもファームウェアレベルまで踏み込んだ変更が必要でした。が、競合という面ではKFM2150は研究・開発向け、本機能は生産やメインテナンスなどの現場向けとして棲み分けが可能であって、現行ソリューションでカバーできなかった部分を補うものです。もうひとつのファームウェアに手を入れることは、社内の技術的な問題ですので私が頑張ればいい話でした。
実際のところ当面は工場オプションの形で供給することになります。いずれにしてもアプリケーションソフトとセットでご提供しますので、お客様は気にかけることはありません。具体的に言うと、お客様はアプリ上で測定する周波数点を指定するだけでインピーダンス対周波数の特性グラフが得られます。
<加々見>測定する値がミリΩオーダと低いこともあって、バッテリの端子部分や電流検出部分などの影響が結果を左右します。特にスタックされた大型電池などでは真の測定端と実際の測定端を太く短く結ぶのは現実として不可能なこともあります。そうしたことで困っておられるお客様もおられるので、検出の配線をスキャンして切り替えるマルチプレクサ/スイッチャなどの対応も考えています。
<大塚>お客様の中には今以上に高い周波数での測定等をご要望される方もいらっしゃいます。こうしたニーズを汲み取って、バッテリのインピーダンス測定に関する問題解決をトータルに考え、各種のソリューションをご提案していければと思っています。