第五話 あとがき
第5話および第6話(次話)は、直流電源の「レンジ」の理解がテーマです。第4話までで、直流電源には「スイッチング方式」と「ドロッパ方式」があるということを、みなみは覚えました。しかし業務応援に向かった先のエンジニア(高部)から投げかけられた新たなワード、「ワイドレンジ方式、電力型電源、シングルレンジ方式」に戸惑ってしまいます。「スイッチングとドロッパ以外にも直流電源があるの?」と。これは初学者にありがちな混乱ですが、「スイッチングとドロッパ」は「回路方式」の違い、「ワイドレンジとシングルレンジ」は「出力範囲」の違いです。
さて、実験用直流電源は出力できる電圧および電流の可変範囲(=レンジ:出力できる幅)が、仕様として決められています。「0~40V、0~9A」とパネルにある PAS40-9 という製品は、電圧40Vで9Aまでの電流を流せます。「なんだ、そんなの当たり前じゃないの?」と思われるかもしれませんが、昨今それが変わりつつあります。たとえばPWR401Lという製品の表記は「0~40V、0~40A、400W」です。これを(かつての)常識で考えれば、電圧40Vで40Aまでの電流を流せる、となるはずです。しかしそうではありません。よく見ると「400W」とも書いてあります。実は直流電源の「レンジ方式」を理解するポイントがこの「W=ワット:電力」なのです。
実験用直流電源の歴史を紐解くと、昔の製品にはこの「レンジ」という概念がありませんでした・・・というか、大多数が「シングルレンジ方式」であったため、区分する必要がなかったというのが正しいでしょう。ここで中学理科で習った公式「電力=電圧 × 電流」を思い出して欲しいのですが、「0~40V、0~9A」とパネルに書いてあれば、その直流電源の出力できる最大電力は「40×9=360(W)」であり、わざわざ表記する必要がなかったのです。しかし 2000年頃から、「そうではない」製品が登場し始めました。それが「ワイドレンジ方式」の直流電源です。なお、当社の呼称は「ワイドレンジ」で、他メーカーさんでは「ズーム」、「オートレンジ」、「ターボ」などと表現していますが、概念としては同じと思って差し支えありません。
ワイドレンジ方式の直流電源は、概念が理解できればその有用性が腹落ちするのですが、そうでないと「なぜ、そんな分かりにくいものを作ったのか?」と思うかもしれません。仕様がわかりやすいシングルレンジ方式の直流電源だけでいいのではないか?、それとも新しいものを売りつけたいメーカーの都合?と。正直なところメーカーの都合という側面は全否定しにくいのですが(確かに製品ラインアップを統合できるというメリットがあります)・・・しかしそれ以上の、ユーザーの現場、現実に即した利便性があるのも事実です。ということで、次回(第6話)では、両方式の違いに加えて、ワイドレンジの便利さや開発された背景などを説明して参ります。