第八話 あとがき
本作品のラスボス(笑)とも言える「定電流」を扱った第8話。いかがでしたでしょうか。これを読んで「間違ってはいないけど、説明が足りないかも」と思ったあなたは、定電流を十二分に理解されている方です。しかし多くの方(若葉マークのみなさん)は、みなみちゃんのように「わかったような、でもわからないような」モヤモヤした感じではないでしょうか。それはなぜなのか。
一般的な実験用直流電源には「定電圧」と「定電流」の動作モードがありますが、多くの場合は電圧優先、つまり「定電圧モード」で使われているのではないかと思います。物語の冒頭、初期の直流電源を紹介していますが、昔の直流電源には定電圧モード(出力電圧設定)しかありませんでした。被試験物(電子機器)が必要とする電圧が設定でき、必要な電流が流せればそれで役目を果たせたわけです。電圧はしばし水圧に例えられます。水鉄砲の引き金をギュッと握れば勢いよく水が出る、ゆっくり握ればチョロッと水が出るイメージを、そのまま電圧の高低(の振る舞い)になぞらえても大きな違和感はありません。つまり電圧制御(定電圧)の概念は、比較的理解しやすいのです。
一方「定電流」はどうでしょうか。先の水の例に倣うなら「水圧にかかわらず流量を一定に制御する」といったことになるわけですが、日常の中にそういった事象を(自覚的に)見たり行ったりする機会はほぼありません。もちろん電子工学の基礎を理解していれば、回路図と「オームの法則」つまり電圧と電流(抵抗)の関係式から、直流電源が定電流モードになった時、負荷電圧がなぜ下がるのか等を簡単に理解できるでしょう。しかし回路図は(計算式等も含め)本作品では原則御法度です。どうしたものか・・・。そこで「定電流」の動作原理の説明ではなく、その背景に着目することにしました。世には原理がブラックボックスでも、生まれた背景やそれによって実現される利点(意図、理由)が理解できれば、有用に使える物がたくさんあります。直流電源もそれは同じだろうと。なぜ定電流制御が必要なのか、またその利点は何なのかを知ることが、直流電源を正しく使う道標になるのではないかと。
なので、このマンガを読んで理屈が理解できなくとも心配はいりません。あとは「慣れ」です(爆)。例えるなら自動車で後退するときのハンドル操作。免許取り立ての頃は、後退したい方向(操舵輪の向き)とハンドル操作の感覚が一致しないものです。しかし経験を重ねると出来るようになります。直流電源の動作モードも同じです。実機を使って機器の動きを経験するうちに勘所(電圧や電流の振る舞いが変わる条件や設定等)が会得できるのではないかと思います。特に 15 ページの表「設定操作上の注意点」は役立つはずです。ぜひ覚えておいてください。