

まず最初に、
前作(俺の後輩が可愛いのはたぶん何かの間違いだ)が
大変好評をいただけたことに、
この場を借りて感謝いたします。
人によっては「不真面目」に見えるかもしれない企画でしたので、
正直なところ、不評や炎上という不安はありました。
しかし、蓋を開けてみたところ、
想像以上に好意的な感想・意見が多く、
「この企画を実現して本当によかった」と
制作担当チーム皆で胸を撫で下ろしました。
前作完結直後から、続編希望の声をたくさんいただきましたが、
様々な事情でそれが難しい中、「コロナ禍」という大きな出来事も起き、
起案者である私自身の事情(定年)もあり、
続編はもう不可能・・・ということになっていました。
ところが、前作から5年たったある日。
「続編希望の声にどうしても応えたい」
という熱い連絡が、販売促進担当の課長からありました。
私自身は、少し戸惑いました。
前作の企画実現は、けして簡単なことではありませんでしたし、
いろいろな好条件が重なったという
「運」の要素も大きかったと思っています。
しかし、課長がなんとしても引き下がらない(笑)
・・・「そこまで言うなら再度、老骨に鞭打って」、
となったのが2023年の冬。
そして、満を持しての再始動・続編がこの「Returns」です。
「Returns」では、
耐電圧試験器、電子負荷、交流電源の
3つの製品を題材として扱います。
これらは前作の題材(直流電源)と比べると、
読者(特に新人、若手エンジニア)の方々には
馴染みが薄い機器であろうと思います。
また、直流電源よりも技術的に難解な部分が多く、
これら製品をマンガで解説するのは非常に困難です。
なぜ、あえて説明が難しい製品を、
しかも3つも同時に題材にするのか?
「そこに山があるから」という名言もありますが・・・
今作では、一つの製品を噛み砕いて深く説明ではなく、
読者の方々に馴染みがない製品を、
「薄く広く」説明することで、
まずは「知っていただく」ことを目標にしました。
なので、このマンガを読んで
機器が自在に使えるようになることを
期待してはいけません(爆)。
あくまで「入門」ではなく「入門以前」として、
本格的な知識習得の準備体操として
お読みいたただければと思います。
舞台は前作と同じロボット系ベンチャー「ゼロワン・ロボティクス」。
俺様系イケメンエンジニア(先輩=宇都木)と、
ゆるふわな女子エンジニア(後輩=菊永)の
凸凹コンビが物語を通じ、
「耐電圧試験器、電子負荷、交流電源」の
基礎知識を解説していきます。
ぜひ最後までお楽しみいただければ幸いです。
なお、この作品の長いタイトルがさらに長くなり恐縮ですが(笑)、
略称として「ハイカワR」または
「ハイカワReturns」と呼んでください。
よろしくお願いいたします。
きくなが みなみ菊永 水美「コミュニケーションロボット開発部」のUI(ユーザインターフェース)エンジニア。情報工学出身でプログラミングはお手のものだが電気・電子工学については心許ないため、先輩社員(宇都木)のサポートを受けながら製品開発に従事。素直な性格だが、天然キャラが隠しきれず、ときどき宇都木を悶絶させることも。飼い猫の名前は「だんご」。
うつぎ なおと宇都木 直人「機能モジュール開発部」のファーム開発エンジニアで、実務経験からハード設計の知識もある。近年は「何でも屋」になりつつあると自嘲気味。以前同僚であったことから、後輩(菊永)から頼られる存在。外見はクールなイケメンだが、後輩の菊永の前ではツッコミキャラになりがち。コーヒー焙煎の奥深さに魅了されている。

きくなが みなみ菊永 水美「コミュニケーションロボット開発部」のUI(ユーザインターフェース)エンジニア。情報工学出身でプログラミングはお手のものだが電気・電子工学については心許ないため、先輩社員(宇都木)のサポートを受けながら製品開発に従事。素直な性格だが、天然キャラが隠しきれず、ときどき宇都木を悶絶させることも。飼い猫の名前は「だんご」。

うつぎ なおと宇都木 直人「機能モジュール開発部」のファーム開発エンジニアで、実務経験からハード設計の知識もある。近年は「何でも屋」になりつつあると自嘲気味。以前同僚であったことから、後輩(菊永)から頼られる存在。外見はクールなイケメンだが、後輩の菊永の前ではツッコミキャラになりがち。コーヒー焙煎の奥深さに魅了されている。

企画・原案
菊水電子工業株式会社
1951年創業。エレクトロニクスの研究、応用製品の開発・製造に不可欠な「電子計測器」および「試験用電源装置」のメーカーとして、国内外に多数の実績を持つ。同業他社に類が少ない「計測とパワーエレクトロニクスの複眼思考」を強みに、近年は、環境・新エネルギー、電気自動車、ロボット、loT などの先端分野に向けた製品開発に注力している。
作画
maki
漫画家・イラストレーター。広告マンガでの実績多数。ビジネスコミックでのおもな実績は「マンガでわかる!誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方」(すばる舎)、「マンガでわかる!仮説思考」(宝島社)、「マンガ宝くじで1億円当たった人の末路」(日経BP社)などがある。
【マンガ制作】 株式会社トレンド・プロ
第七話 交流電源(その1)
コンセントの電気は汚れている?
第七話 あとがき
後編7〜10話のテーマは、交流安定化電源(以下、交流電源と略します)です。交流電源は電源装置の一種ではありますが、直流安定化電源と比べると、その使用機会は圧倒的に少ない装置ではないかと思います。前作でも触れましたが、電気製品の内部回路のほとんどは直流で動くように設計されています。そしてその直流は、電源回路(製品内部または外部アダプター)が、コンセントの交流を変換して作り出しています。なので多くのエンジニアにとって、交流は直接扱う(回路に直結する)ものではなく、電気製品を動かすインフラ(基盤設備)でしかないことが多いのです。とりわけ日本では、商用電源(交流)が24時間365日安定的に供給されており、空気や水の如く使えることが「当たり前」になっていますので、(交流電源という存在や必要性が)意識されることが稀であるのはもっともなことでしょう。
交流は、周期的に向きと大きさが変化する電流ですが、やはり身近なものは一般家庭のコンセントです。電気は発電所で生まれたときは、数千V〜2万Vですが、これを併設の変電所で27.5万V〜50万Vといった超高電圧に変電(変換)されて送電されます。送電された超高電圧の電力は、各地で変電を繰り返し徐々に電圧を下げて需要家(皆さんの家庭や職場)へ送られています。交流電源は、(需要家への配電と同様の)100Vや200Vなどの交流を出力できる電源装置です。さらに世界各国において、特に日本では東西で周波数が異なりますが、交流電源は出力周波数の変更(50Hz/60Hz)も可能です。しかし、ここで疑問が湧きます。コンセントがあれば手軽に交流を利用できるのに、なぜわざわざ交流電源というものがあるのでしょうか?
その理由は大きく3つあります。(1)電圧や周波数の可変、(2)供給の安定化、(3)電源環境シミュレーションです。(1)は、世界は国や地域によって電圧や周波数が異なっています。電気製品を世界どこでも使えるように設計し(ワールドワイド対応電源)、それを検証する際、各国にいちいち持ち込んでの試験は非効率なので、試験環境(電圧や周波数)が手元の装置で再現できると便利だということです。また三相交流という特殊な送電方式を構築することもできます。(2)は、コンセントの交流の供給品質を補うということです。先ほど「日本では安定的に供給されている」と述べましたが、実際は様々な要因による、ノイズや電圧・周波数の変動といった不安定性があり、それは完全に排除できるものではありません。そこで交流電源を介することで、その不安定性を最小化することができます。
(3)は、交流電源の応用としては比較的新しい概念です。近年はデジタル制御技術やインバーター技術を利用した電気製品が普及したこともあり、それらの入力電流波形に起因する商用電源への影響(歪みやノイズ)が、社会的に無視できないレベルになっています。その放置は、送電設備の破損や、最悪大規模な停電の原因になりうるものであり、電気製品のメーカーにはその対策(設計)が求められています。そういった背景から、商用電源の異常状態(歪みやノイズ)を再現できる検証用装置として、交流電源を活用する例が増えているのです。これは(2)の供給品質とも関連する事項ですが、コンセントの電源は常にきれいな100Vの交流波形(正弦波)が出ているわけではありません。私たちの想像以上に過酷な実情があり、実環境を模した電気製品の動作検証(シミュレーション)は、必須になりつつあるといえるでしょう。
7話では、かの有名な電子工作系イベントをモデルにした展示会を舞台設定にし、みなみが商用電源の課題(異常状態)に気づくきっかけとしてみました。私自身、出展者として参加した経験から、どこかでこのイベントを描ければと思っていたので、今回それが実現でき、まさに感無量です。最後に、展示会シーンの作画のための取材にご協力いただけました、タカハ機工株式会社様、女子美術大学・ロボット研究プロジェクト様、小山高専加速器製作チーム・アテーナ様、ねくある・河島様、tofunology・新井様、皆様に感謝申し上げます。おかげさまでイベントシーンをよりリアルに描くことができたかと思います。本当にありがとうございました。

第八話は2025年3月公開予定!