EVやPHVの出現で新たに課せられた”充電状態にあるクルマのEMC(伝導エミッション/イミュニティ)テスト”をサポート
EV/PHVのEMC評価に新たな課題
EV/PHVが現れてクルマはエコで便利な乗り物になりました。
<市川>EVやPHVの実用化に伴って自動車業界に”クルマへの充電”という新たな技術が持ち込まれました。EV/PHVに充電は欠かせません。同時にそれは、クルマが電子機器と同じに扱われることを意味します。充電状態にあるクルマは系統(家庭のACコンセントや配電盤)につながっているわけですから、形態としては家電品など一般の電気電子機器と同じになるからです。EMCの測定・評価についても然りで、車にも(充電状態においては)家電製品などと同じEMC(電磁的調和)能力が求められることになり、国際的な規格も制定されました。充電という新たな技術を導入したことで、自動車業界にも一般の電気電子機器と同様のEMC測定と評価技術の導入が課せられたわけです。
別世界かつ未経験の測定
具体的にはどのような規格への対応と技術導入を迫られているのですか。
<市川>充電に関するEMC規格はECEのRegulation No.10*1で規定されています。具体的にはRegulation No.10は第5版(ECE R10.05)まで発行されていて、車両のRESS充電モード*2での試験がECE R10.04で規定され、ECE R10.05ではESA*3の REESS充電モードでの試験が追加されています。つまり、4版で充電機能を持った車本体のEMCが規定され、5版ではそれらに搭載される電装品類についても規定が及ぶことに なって各メーカでは対応に追われています。
<野尻>EV/PHV以前のカーエレ技術は一般の電気電子とは独立した技術世界を構成していました。EMCに限ってみても、例えば輻射ノイズについては一般の機器はCISPR22で規定されていますがクルマはCISPR25です。測定条件にしても導体のグラウンドか疑似大地で計るかという具合に違っていました。とはいえ、お互いに住む世界が違っていたわけで、言うなれば平和にやってきたわけです。
それが、EV/PHVの充電でクルマが系統に接続されることになったことで位置づけが変って、一般電気機器の世界とも歩調を合わせなければならなくなった。話が複雑というかクリアしなければならない規格、具体的には測定項目がぐんと増えてしまったのです。さらに具合が悪いことに、追加される測定項目がクルマにとっては別世界の未経験で、 技術やノウハウの蓄積がほとんど無いものばかりなのです。
例えば、”AC電源線への高調波エミッション、フリッカ、雷サージイミュニティ”などは家電などの機器ではお馴染みですが、クルマの技術者にとってはこれまで全く縁のなかった測定です。クルマの評価技術者にとっては降ってわいた災難というか、細かな部分になると何のことか意味が分からないとおっしゃる方もいるのが現状であり、悩ましい課題なんです。
システムで提案できるアドバンテージ
キクスイは従来から一般電子機器用や自動車用のEMC試験装置を手掛けています。
<野尻>当社は直流電源、交流電源、高調波電流測定装置、自動車用の電源試験装置、さらに絶縁・耐圧試験機など、一般電子機器と自動車双方に対応した測定コンポーネントやシステムを提供してきました。EV向けには急速充電器なども手掛けています。それら長い経験の中で技術もノウハウも当社には十分な蓄積があります。
<市川>充電状態での測定が求められるわけですが、充電には外部の充電器を介して大電流の直流で行う急速充電とラインからのACによる充電の二通りがあります。まず、急速充電の場合、既成の実際に使われる充電器を使えばいいように思えるかもしれませんが、測定には信頼性の高い測定専用の充電器を特別に用意する必要があります。既成のものを使ったのでは測定値に充電器固有の特性が紛れ込んで不確かさが大きく なってしまうからです。例えば充電器からノイズが発生したら、充電器のノイズも含めて測定されてしまいます。同様にAC充電でも理想的なACの供給、つまり測定用交流電源の使用が望まれ、我々はその何れも供給できます。
<野尻>急速充電の場合はCHAdeMOやCOMBO(CCS)など方式に則った充電器でなければなりません。これらを個別に用意してその都度交換するとなると大変な負担で、できれば簡単に切り換え対応できる柔軟性が求められます。当然ながらシステム全体を制御したり機器の設定と測定を行うソフトウェアなども必要です。そんなことがあって、実は「キクスイさん何とかならないか」とご要望いただいたのがソリューション提案の出発点なんです。
幸いなことに我々は充電器(直流電源)や交流電源、関連するEMC測定の技術とノウハウを保有しています。クルマも一般電子機器も国内だけではなく欧米や中国などでも機器設計や測定現場のお客様の声を数多伺い、ご提案を重ねてきました。
ノウハウの一例を挙げれば、ECE R10のANEX16/22で規定される雷サージ試験は高電圧を扱う測定であって危険性を伴うため測定に際しては機器の配置や接続手順など作業の安全に十分な配慮が必要なのですが、クルマの世界ではこうした高電圧を扱ってこなかった。そのため、機器の配置や接続、測定の手順などが(我々から見れば)ラフに行われている例などもあったりします。
個々のお客様に相応しい測定環境を実現するには、こうした部分や電波暗室などの設備そしてオペレータを含めて全体を最適化しなければなりません。システムとしてもお仕着せの固定化されたものではなく、コンサルティングと個別の提案が必要だと考えています。
- ECE Regulation No. 10 (ECE R10) 路上での使用が意図された車両やそのような車両への取り付けが意図されたデバイスのEMC(電磁的両立性)に関する規則 ECE:国際連合欧州経済委員会
- REchargeable Energy Storage System 再充電可能エネルギー貯蔵システム ECE R10.04 ではRESSと呼称
- Electronic Sub-Assembly 電気/電子サブアセンブ