どこにでも運べ、充電だけでなく
ステータス監視もできる
マルチパーパス充電器。

自動車電装 KIKUSUI mag

可搬型EV急速充電器の開発

掲載日-2021年7月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

どこにでも運べ、充電だけでなく
ステータス監視もできる
マルチパーパス充電器。

EV充電の環境変化

持ち運びできる急速充電器ですか

<松田>ご承知のように、EVには普通充電器と急速充電器*1が規定されています。短時間での充電が可能な急速充電器は高速道路のサービスエリアや車のディーラーなどに平置つまり固定して設置されますが、本機はこれをシンプルな可搬型にしてどこにでも運んで使えるようにしたものです。主に屋外で使うことを想定したタイプと、EMCテストサイトなど屋内での使用を想定したタイプの二つで開発を進めています。何れも単体での出力は19.2kW、これは可搬型急速充電器に許されるマックスパワーなんですが2台の並列運転もできます。電源は3相200Vの低圧受電ですからキュービクルなどの高圧受電設備は要りません。これによりどこででも使える、というものです。

急速充電の方式はいくつか規格がありますが、本機はCHAdeMO、Combo、GB/T対応でワールドワイドな車種に使えます。

さらに本機にはステータスモニタ機能を搭載しておりまして、充電の状態を計測監視できることが大きな特長です。モニタは単体でできますが、パソコンからの制御も可能ですので充電の状態解析などEV計測システムのワンアイテムとしても活用できます。

EVの測定ニーズ

どのようなお客様を想定しての開発ですか

<松田>EV用の充電器ですから普通であればスーパーの駐車場や高速道路のパーキングエリアなどのインフラの設備企業さんをターゲットにするところですが、本機はEVを作っておられる自動車メーカさんを第一のターゲットにしました。

自動車メーカさんはクルマと充電器をつないだ状態いわゆるREESS*2充電モードでEMCをはじめとする様々なテストをなさいます。ECE R10*3などの試験規格も制定されていて弊社ではこれにトータルに対応したEV/PHVテストソリューションを提供しています。その一方でお客様はEVの充電性能だけを知りたい、監視していたいという機会も多く、そのためのシンプルなモニタ付き充電器のようなものがあると助かるというお話しを頂く機会がありまして、それが本開発の出発点なんです。試験器・測定器としての機能を持ち合わせた充電器、自動車ユーザ向けの充電器ではなくて、簡易型のREESSモニタとか充電機能評価用電源、あるいはエージング用充電器みたいなイメージです。単に移動可能な急速充電器ということであれば市場にあるんですが、測定監視機能を備え計測や実験作業に使えるものは見当たりません。

想定シーン

具体的にどんな時に便利なのでしょう

<松田>想定されるシーンとして、例えばクルマメーカさんがEVの実車をテストコースに持ち込んで走行テストをやりますよね、その場合、ある程度走ったら短時間のうちに再充電しなければならないわけですけれども、そのテストコースに実車に合致した急速充電ステーションがあるとは限らず、無い時はステーションがあるところまで移動しなければなりません。もちろん、一般用の普通充電器では充電に時間がかかってダメです。そんな時に実車と共に持ち込める急速充電器があれば助かりますよね。本機ではさらに充電状態がモニタできて異常の検知なんかもできるので、すごく便利なはずです。

モニタ

<松田>もうひとつの例としては、電波暗室内での利用シーンがあります。クルマのEMCとりわけRFに関するテストはテストサイトの大型電波暗室内で行われるのですが、EVではテスト中に充電が必要になったらクルマを持ち出して充電ステーションまで行かなければならないことになり時間と労力の相当な無駄です。そんな時にも可搬の急速充電器があればその場で充電できます。

同様に、充電状態でのテストが必要となった場合は電波暗室の外から充電ケーブルを引き込むことになりますが、暗室というのはその性質上、新たな電線の引き込みは難しいんです。車種によって例えばバスとトラックでは充電の受け口の位置が大きく異なるため暗室の充電口を複数設けなければならず、困ることもあるかもしれません。もし充電器を暗室内に持ち込めて自由な場所に置くことができれば、予め暗室にある管理された電源で駆動できますから簡単に済みます。

ただし、その場合は充電器からのノイズの発生や充電器を通してのノイズの流出があってはなりません。ただの充電器ではダメなわけで、屋内仕様タイプについては厳重なノイズ対策が施してあります。

ソリューションの横展開

電動化は他の産業でも進んでいます

<松田>機器の電動化とそれに伴う大容量バッテリの充電ニーズは、潜在的ではありますが着実に進行しています。例えばパワーショベルなどの建設機械や運搬機械なんかはエンジンからモータへの切り換えの流れが顕著ですよね。動力を電力線から受電する方式もありますが、使用する状況を考えるとバッテリ駆動が有力です。その場合、EVと同じように現場での急速充電がどうしても必要になると考えられます。

例えば現場で昼休み中に充電したいという場合には工事期間だけサッと設置し撤去できる急速充電器が欲しくなるでしょう。屋外で使うことを想定したタイプはこうした状況を意識しました。具体的には、防水や防塵、それに動作温度など耐環境機能を強化したタフな仕様にしました。充電方式はCHAdeMOなどEV向けの規格が適用されると予想していますが、本機ではお客様毎のご要求に合わせられる柔軟性も持たせてあります。

因みに、慌ただしい現場での充電ですので、きちんとした充電の管理、具体的には充電のモニタリングは安全性や信頼性を確保するうえで必須となるはずです。

建機イメージ

技術の作り込み

現場での使用を強く意識したソリューションですね

<松田>現場での使用シーンを意識して、設置の際の配線接続の間違えを防ぐために通信線を含む充電口の接続を各規格専用のコネクタ式にするなど様々な工夫を凝らしました。
屋外タイプでは耐環境性能の強化も図っています。防水防塵に関してはIEC防塵防水等級でIP45*4を、動作温度は-20℃から+40℃保証を見込んでいますが、ここまで過酷な環境での使用を想定した経験は無く、-20℃の低温や防塵性能まで規定した製品はたぶん当社初です。私自身も当社としても新たな技術を習得できました。

いっぽう、先にお話ししたように弊社ではREESS充電モードに対応したEV/PHVテストソリューション(R10システム)を提供しています。屋内仕様タイプのノイズ対策などはこのR10システムを手掛けた経験が大いに役立ちました。さらに、弊社は過去に設置型の急速充電器を供給していた経緯もあるのですが、最終的に高信頼のパワー供給技術やEMCのノウハウなどキクスイならではの測定器グレード・クオリティを作り込めたと思っています。

  1. 普通充電器と急速充電器
    普通充電器は戸建て一般家庭の充電器やビル屋外駐車場などに設置される汎用のEV充電器。商用の交流電力(100V/200V)をそのままEVに供給しEV内で直流に変換してバッテリを充電する。充電時間は比較的長い。
    これに対して急速充電器は、残量切れなどの緊急時や、業務用で車両を頻繁に利用する場合などを想定したもので、高速道路のサービスエリアや車のディーラーなどに平置設置される。充電は交流(3相200V)を充電器内で直流変換しEVに供給する。また、充電器-EV間を通信しながら電流を調整することによって電池性能と使用環境に応じた充電を可能とすると同時に安全確保が図られている。具体的にはCHAdeMO、Combo、GB/Tなど国際的な規格が定められている。
  2. REESS  rechargeable energy storage system
  3. ECE R10  ECE Regulation No.10 Uniform provisions concerning the approval of vehicles with regard to electromagnetic compatibility.
  4. IP45
    外来固形物に対する保護 4級:直径1mm以上のワイヤーや固形物が中に入らない
    水の侵入に対する保護 5級:あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない(防噴流形)

執筆者: 菊水電子工業株式会社

計測と電源のエキスパート・カンパニー 菊水電子工業のスタッフによる執筆です。

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