インピーダンスとは交流回路における電気抵抗のことですが、直流の電気抵抗とは何が違うのでしょう。

KIKUSUI mag コラム

インピーダンス測定の落とし穴(燃料電池編)

掲載日-2003年4月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

インピーダンスとは

そもそもインピーダンスとは交流回路における電気抵抗のことですが、直流の電気抵抗とは何が違うのでしょう。
直流の電気抵抗は皆さんご存知の通りオームの法則、R=E/Iで与えられます。では交流は・・・実はこれも理屈は同じで、加えた電圧Eを流れた電流Iで割っただけの物なのです。違うのは交流で測ったということだけ。
式で表せば

インピーダンスZ=E⋅sin(ωt)/I⋅sin(ωt+φ)

では何故燃料電池でインピーダンスを測る必要があるのでしょうか。

インピーダンス測定の意義

電気化学反応を利用した燃料電池のインピーダンスを等価回路に表すと<図1>のようなものになります。実際にはガスの拡散や精製した水の影響でもっと複雑になるのですが、ここでは分かりやすくするため単純化して表現います。

単純化した燃料電池の等価回路

Rsは燃料電池では膜抵抗と呼ばれ、電極、セパレータ、触媒そしてイオン交換膜の電気抵抗を合計したものです。イオン交換膜の導電率が最も大きく影響しているため俗にこのような呼び方になっているようです。
Rcは燃料の水素が電子を放出し酸素が電子を受取る反応において、これを活性化するためのエネルギーロスにより発生するもので反応抵抗と呼ばれています。
Cdは電気二重層容量と呼ばれる静電容量で、Rcと並列に入っているため時定数を形成することになります。

この等価回路のキャパシタンスCdは直流を通しませんから、燃料電池での直流抵抗は膜抵抗Rsと反応抵抗Rcを足した値となります。つまり直流ではこの合計値しか測定できず、Rs、Rc各々の値やCdの値を知ることはできません。
ところが異なる2点以上の周波数でインピーダンスを測定すると、その測定値から上記等価回路のCdを含んだ各定数を算出することができ、燃料電池のどの部分で何が起こっているのかを知るための大きな手がかりにすることができる訳なのです。

インピーダンス測定器とは

直流抵抗の場合、直列にインダクタンスLが入ろうと、並列にキャパシタンスCが入ろうとその値は変化しません。しかし交流で物事を考えるインピーダンスの場合はL成分やC成分によって発生するリアクタンスを考慮に入れなければなりません。通常インピーダンスZは実抵抗成分のRとリアクタンス成分Xが接続されたものとして考えます。
インピーダンス測定器はこのRとXを測定する機械なのです<図2>。

インピーダンスの測定

インダクタンスの影響

燃料電池を実用化するにあたって問題となっていることのひとつは体積あたりの出力電力の向上と環境変化に対する安定性です。燃料電池の出力効率を上げるには単純に考えればRs、Rcをできるだけ小さくすることです。燃料電池開発者はこの値を小さく、かつ安定化することに対して躍起になっている訳です。
現在のPEFC燃料電池の出力電流密度は2A/cm2にも達しており、小型の単セル燃料電池の抵抗は数mΩ~数10mΩ程度となるので普通のLCZメータなどでは非常に測りにくい低い値になっています。

このようなmΩオーダーの低抵抗を、電線などの影響を受けずになるべく正確に測定するにはどのようにすれば良いでしょうか。
これは電源のリモートセンシングでご存知の通り、測定物の直近にセンシング線を接続する方法が非常に有効です。このことはインピーダンス測定でも同様で、測定物までの配線抵抗やインダクタンスを含まずに測定することができます。

しかしインピーダンス測定においてはこれだけで安心してはいけません。周波数が高くなると僅かな長さの電極が持っているインダクタンス成分の影響が大きくなってくるからです。厄介なことにインダクタンスは長さのあるところには必ずできてしまうため、mΩオーダーの低インピーダンス測定を行う場合は十分に気をつけなければなりません。数cmだからと思って侮っていると思わぬ落とし穴にはまってしまいます。

例えば<図3>の例では測定値にどのくらいの差が出るのでしょうか。

測定値の差

仮に電池から出ている電極の長さが各々2cmだったとします。一般的に電線のインダクタンスは太さによって影響はあるもののおおよそ10nH/cm位といわれていますので電極のインダクタンスは約40nHあると思われます。
周波数10kHzで真値がR=3mΩ、X=0Ωのインピーダンスを持つ燃料電池の測定していたとすると、<図3>では

Z=R+X=0.003+jωL=0.003+⋅j2π⋅10000⋅40e-9≒3mΩ+j2.51mΩ

φ=tan(X/R)≒40°

たった2cmずつセンシングする位置がずれただけで、何と本来ゼロのリアクタンス分が2.51mΩにも達し、電圧と電流の位相角が40°も発生してしまい真値からかけ離れた値を示してしまいます。例えば測定周波数を変化させコール・コールプロットを描くと<図4>のような差になってしまう訳です。

コール・コールプロット

電磁誘導の影響

燃料電池のインピーダンス測定ではもうひとつ気をつけなければならないことがあります。それは測定電流が作り出す磁束の影響です<図5>。

測定電流が作り出す磁束

測定電流を流している配線とセンシング線が<図5>のように接続されると測定電流線が発生する磁束がセンシング線に結合し、測定電流に対して90度位相のずれた誘導電圧をセンシング線に誘起してしまいます。
この影響は大きな測定電流を流さなければならない大型のシステムで特に問題になり、こういった電磁結合が起こらないよう配線には十分に気を配る必要があります。

おわりに

このようにインピーダンス測定においては、直流では考えなくても良かった部分に注意しないといくら測定器が高精度にできていてもその能力を発揮することができなくなります。燃料電池開発に携わる方々は化学分野の専門家が多く、これらのような問題で測定値に再現性が得られないと悩んでいる事も少なくないようです。

菊水電子は少しでもお客様においてこのようなお悩みを解決する糸口をつけるため、今後も交流インピーダンス測定をはじめとする電子計測器、それらを活用するための情報を提供して参りたいと考えています。これらが燃料電池開発の手助けとなれば幸いです。

(この文献は菊水電子工業 季刊情報誌SAWS 2003年春号に掲載された記事です)

執筆者: 菊水電子工業株式会社

計測と電源のエキスパート・カンパニー 菊水電子工業のスタッフによる執筆です。

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