なぜ直流安定化電源が必要なのか?
電源とは、辞書によると「電気を供給するみなもと」「電力を得るもの」となっています。その種類を大別すると、交流電源と直流電源になります。
交流は一般家庭用のAC100V、50/60Hzとか、工場用のAC200V、単相、三相、などがあります。直流では、電池、バッテリなどが身近なものです。乾電池などは取扱いが簡単ですが、いつも欲しい電圧、電流値が取り出せるとはかぎりません。
商用電源ならば、パワーの寿命の心配なしに小さな電力から大きな電力まで自由に利用できます。商用電源は交流(AC)の100Vです(日本国内の場合)。交流は時間とともに電圧の大きさと電流の方向が周期的に変化します。
ところが、産業機器、民生機器等に使われているトランジスタやIC等の電子回路は直流で動作するようになっています。そこで交流を直流に直して、電子回路に適した電圧と電流を供給する装置として、直流安定化電源が多く使われています。
直流電源の種類
直流電源には、簡単な整流器とコンデンサの組み合わせだけの非安定化電源と、複雑な回路技術を用いた多種多様の安定化電源とがあります。
安定化電源
直流安定化電源とは一般に商用交流電源を用い、入力変動や負荷変動に影響されない、安定した直流電圧(又は電流)を作り出す装置で、次のような特徴があげられます。
- 入力電圧(AC100V等)が、変動(90〜110V)しても出力電圧(又は電流)は変動しない。
- 負荷が電源の能力内(例えば出力最大定格が2Aなら0〜2Aの間)で変化しても出力電圧は変動しない。
- リップルが少ない。
- 出力電圧(又は電流)の設定精度が高い。
- 非安定化のものより効率が悪い。
- 高価である。
- いろいろな応用が可能。
非安定化電源
非安定化電源とは、簡易的に直流電圧を発生させる場合に用いますが、外的な条件(入力電圧、負荷変動、周囲温度等)によって出力が変動します。次に、その特徴をあげます。
- AC 電圧にほぼ比例して出力電圧が変動する。
- リップルが負荷の大小で異なるが、比較的多い。
- 丈夫である。
- 安価である。
直流安定化電源の構成
直流安定化電源には大別すると
- シリーズレギュレータ
- スイッチングレギュレータ
があります。ここでは、直流安定化電源の構成を、シリーズレギュレータを例にとり説明します。直流安定化電源の構成は大別して、次の4つの要素に分けられます。
- 非安定化電源部
- 安定化回路
- 保護回路
- その他の補助回路
《図-1》直流安定化電源の構成
非安定化電源部
交流を直流に変換する回路で、変圧器、整流回路、平滑回路の3つから成りたち安定化する前の電源で非安定化電源と言われています。
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変圧器
変圧器はAC電源の電圧を適当な電圧に変換する働きと同時に、AC入力側と出力側を絶縁する働きをしています。 -
整流回路
交流電圧を直流電圧に変換する回路で、用途に応じて色々な方式のものがあります。 -
平滑回路
整流回路で整流した後の波形は脈流ですから、さらに波形を平坦にする必要があります。この回路を平滑回路と云い、コンデンサインプット方式とチョークインプット方式があります。
コンデンサインプット方式
整流回路の後に並列のコンデンサを入れる方式(図-2)で出力電圧が高く取れるという利点がありますが、負荷変動による電圧変動が大きい欠点があります。
《図-2》コンデンサインプット方式
チョークインプット方式
整流後直列にチョークを入れる方式で(図-3)、ある負荷電流以上では電圧変動率が良いという特徴がありますが、チョークを入れる為、重量が大きくなる欠点があります。
《図-3》チョークインプット方式
安定化回路
ここまでの非安定化電源部まででは交流電源の電圧が変動したり、負荷が変化する事により、出力電圧はたえず変動しています。その変動分を取り除き、安定した出力を得るための回路を安定化回路と呼んでいます。
《図-4》安定化回路・ブロックダイアグラムとその動作
《図-5》
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基準
電源の安定度を決定づける1ブロックです。可能な限り安定な電圧を供給します。 -
検出
出力の状態を監視し、比較回路に入力しています。 -
比較
基準と検出の両信号を比較し、その誤差を増幅し、制御回路に伝えています。(誤差増幅器) -
制御
このブロックは比較回路から送られた誤差信号を修正制御します。直流電源の場合ここに大容量トランジスタを用いるため、制御トランジスタと呼ばれています。この例のように、制御トランジスタが、負荷に対し直列に構成されるため、シリーズレギュレータ(直列制御方式)と呼ばれます。入力電圧(Vi)は出力電圧(Vo)に対して、リップルの除去、AC電源の変動に対する余裕を持たせる為に数V高めに設定されています(Vce)。(図-5)そのため負荷電流が流れると、その電流(Io)と(Vce)の積の電力が制御トランジスタで消費され熱となって発散します。この熱上昇による制御トランジスタ及びその他回路部品の破壊を防ぐ方法として自然対流空冷(ヒートシンク)、強制ファン空冷等があります。
保護回路
定電圧電源は、出力インピーダンスが非常に低くなっている為、出力端子を短絡させた場合、過大電流が流れて回路又は直列制御用のパワートランジスタを破壊してしまいます。その為過大電流を流さないための保護回路が必要となります。
その種類は大きく分けて、フォールドバック形保護回路(フの字形保護回路)と定電流定電圧移行形保護回路(垂下特性)とがあります。ちなみにキクスイが現時点で販売している標準品の直流安定化電源は全て定電流定電圧移行形保護回路(垂下特性)を使用しています。
《図-6》フの字形保護回路
《図-7》定電流定電圧移行形保護回路(垂下特性)
その他の回路
以上、説明した回路が基本構成ですが、より小形で効率よく、又安全に動作させる為に、プリレギュレータ回路とブリーダ回路、及び過電圧保護回路があります。
プリレギュレータ回路
(図-5)による、Vceが大きすぎると、トランジスタの発熱量が多くなり、パワートランジスタの数が増えたり、筐体温度が高くなるといった問題が発生します。この問題を解決するためには、出力電圧に応じて入力電圧が変わる様にすればよいわけです。入力電圧を可変する方法は、トランスにタップを設けリレー等を切り換える方式と、サイリスタ等を用いて制御整流回路を構成し、整流回路をコントロールする方式があります。
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リレーを用いる方式
回路が比較的簡単で、リレーが切換わる瞬間以外はノイズ等が非常に少ない利点がありますが、大容量になるとリレーが大きくなり、又切り換え点が少ない為どうしてもパワートランジスタの発熱量が多くなる欠点があります。この為比較的小容量の電源に多く用いられています。 -
サイリスタを用いる方法
回路が複雑になるが、整流回路の出力電圧を連続的に変えることができるため(図-5)のVceをたえず一定に保つことができます。このため、リレーを用いる方式に比べ無駄な発熱等も少なく外形も小さくなり、このような理由から大容量の電源に多く用いられています。しかし、サイリスタのノイズがどうしても発生してしまう欠点があります。このノイズが問題となるような場所での使用は注意を要します。
ブリーダ回路
出力端子が完全にオープン状態では、パワートランジスタの漏洩電流のために、出力端子間の電圧が上がってしまう問題があります。又、出力電圧を急に下げる時、出力端子間のコンデンサにチャージされた電流を出してやる必要があります。このための働きをするのがブリーダ回路です。
過電圧保護回路(OVP)
万一故障したり、外部から電圧が加えられたりして過電圧が発生し、負荷を破損したり、焼損したりすることを防ぐための保護回路で、絶対に過電圧をくわえてはいけない負荷や無人で長時間運転を行なう場合は是非必要なものです。
OVPには過電圧を検出してノーヒューズブレイカーを遮断する低速タイプ(50msec位)と、出力端子間をサイリスタにより短絡(crowbar)してしまう高速タイプ(200μsec位)があります。半導体負荷などには高速タイプが良く、モーター負荷などには低速タイプが良いようで、負荷条件により使い分ける必要があります。その他の保護回路
- 過熱保護回路
- 温度ヒューズ
- 入力ヒューズ、出力ヒューズ
- 外部接点による入力遮断
直流安定化電源の装備機能
実験や製造・検査などに使用される出力可変型直流安定化電源の一般的な装備機能を以下に説明します。 なお、電源を実際に使用する際には必ず付属の取扱説明書を熟読いただきますようお願いいたします。
- 過熱保護回路
- 温度ヒューズ
- 入力ヒューズ、出力ヒューズ
- 外部接点による入力遮断
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電圧計・電流計
出力している電圧・電流の値を表示します。現在はLEDなどを使用したデジタル表示方式が主流です。 -
電圧設定つまみ・電流設定つまみ
出力電圧値・電流値の設定に使用します。つまみの回転回数として0〜FS(フルスケール:最大定格)の連続可変を1回転でおこなうものの他、より細かな設定が可能な10回転方式(ポテンショメータ)もあります。また、ロータリエンコーダなどを使用したデジタル式の設定方法もあります。 -
電圧/電流リミット設定スイッチ
負荷の保護等のために電圧/電流の出力制限値の設定に使用します。 -
電源ON/OFFスイッチ
電源のON/OFFをおこなうスイッチです。 -
出力ON/OFFスイッチ
出力のON/OFFをおこなうスイッチです。 -
出力端子
出力を取り出すための端子です。端子にはバインディングポストを使用し、プラス端子を赤、マイナス端子を白ないしは黒としている例が多いようです。プラスとマイナスの端子の中間にある端子はグランド(コモン)端子で、付属するジャンパでプラス端子またはマイナス端子と接続することで、極性を変えることができます。なお、ジャンパを接続せずフローティングでの使用もできます。また、出力容量の大きなもの(高電圧または大電流)はバインディングポストではなく本体背面に大型の端子台を設けている場合もあります。 -
外部アナログ・リモートコントロール(I/O)端子
出力電圧値・電流値の設定を外部電圧ないしは抵抗で、出力ON/OFFを外部接点信号でそれぞれ制御することができます。他の機器との連動や遠隔操作に利用します。またワンコントロール(マスタ・スレーブ)直列運転、並列運転の際に使用する端子や電圧値・電流値モニタ用出力端子等が装備されていることもあります。 -
リモートセンシング端子
負荷までの配線が長い場合、線材の抵抗分のために負荷端での電圧値が、出力設定値よりも低くなってしまう場合があります。このような時に電源内部の検出比較回路にフィードバックする電圧検出位置を出力端でなく負荷端に移動することで、電圧降下分を補償することができます(片側の電圧補償範囲は製品によって異なります。詳細は別途カタログ等でご確認ください)。これをリモートセンシングといいます。 リモートセンシング端子はこの電圧フィードバック用信号の入力に使用します。 -
ACインレット
交流電源の入力用インレットです。ここに電源ケーブルを差し込んで使用します。入力電流値が大きい製品の場合は、大型の端子台に圧着端子付ケーブルで接続する方法をとっている場合もあります。
直流安定化電源の用語
直流安定化電源のカタログなどに使われる用語の主なものの解説を以下にあげます。ご参考になれば幸いです。
定電圧モードと定電流モード
直流安定化電源には負荷が変化しても出力電圧が変化しない状態と、負荷が変化しても出力電流が変化しない状態があり、前者を定電圧モード、後者を定電流モードといいます。なお、英語表記の頭文字を取って、定電圧をCV(=Constant Voltage)、定電流をCC(= Constant Current)と呼ぶこともあります。
定電圧動作
安定化電源の出力は電圧〔単位:ボルト〕と電流〔単位:アンペア〕の2種類の量で表わされますが、このうちの電圧に着目して負荷の値に関係なく設定された電圧を一定に保つ動作を定電圧動作と呼びます。
例えば今、出力電圧Eoが10Vの時、負荷RLとして10Ωを接続した場合、出力電流Ioはオームの法則によりIo=Eo/RL=10V/10Ω=1A流れます。負荷が1Ωの時はIo=10A,0.1Ωの時はIo=100A流して出力電圧10Vを保持しようとします。この様に動作するものを定電圧源といい乾電池やバッテリなどがこれにほぼ相当します。
実際の定電圧電源では出力容量に限りがある為いくらでも電流を流すことはできず、ある電流値で制限されます(当社の製品はこの電流制限値を電流設定ツマミで任意に設定できます)。出力電流が制限されると出力電圧が低下しC.Vランプが消えCCランプが点灯します。さらに負荷抵抗を小さくしてついには短絡しても出力電流は設定された値を越えることはありません(定電流特性)。
《図-8》
安定化電源はこの様に定電圧動作から定電流動作へ自動的に移行して負荷に過電流が流れるのを防ぐことができます(CV/CCオートマチック・クロスオーバ方式)。 (図-8)に動作領域に負荷線を書きこんで、動作点を示します。
出力電圧Eo=10V、電流制限2Aに設定した場合無負荷ではA点に動作点があります。RL=10ΩではB点5ΩではC点と定電圧領域を移動します。さらに負荷抵抗を小さく5Ω→3.3Ωにすると動作点はC点からD点へと移動して定電流領域に入ります(C点をクロスオーバ・ポイントと呼びます)。負荷抵抗RL=3.3Ωの時、出力電圧Eo=Io×RL=2A×3.3Ω=6.6Vとなります。さらに抵抗を小さくして短絡すると動作点はE点に達します。
定電流動作
安定化電源の出力は電圧〔単位:ボルト〕と電流〔単位:アンペア〕の2種類の量で表わされますが、このうちの電流に着目して、負荷の値に関係なく設定された電流を一定に保つ動作を定電流動作と呼びます。
例えば今、出力電流を2Aに設定した定電流電源に負荷RLとして3.3Ωを接続した場合、出力電圧Eoはオームの法則によりEo=Io×RL=2A×3.3Ω=6.6Vになります。負荷が5Ωの時10V、10Ωの時20Vと負荷が大きくなれば出力電圧を増大させて、設定電流値2Aを供給し続けようと動作します。実際の定電流電源では出力電圧はいくらでも上昇させることはできず、ある値で制限されます(当社の製品はこの値を電圧設定ツマミで任意に設定できます)。 この特性を(図-8)に示します。
出力定電流値を2A、制限される電圧を10Vに設定して負荷RL=3.3Ωを接続すると動作点はD点になります。抵抗値を大きくしてRL=5ΩにするとD点からC点へ移動します。さらに抵抗値を大きくしてRL=10Ωにすると動作点はC点からB点へと移動して定電圧領域に入り出力電流が減少します(定電流動作でなくなる)。
さらにRLを大きくしてついには開放にすると動作点はB→A点へ移動して負荷に対して電圧設定値10V以上の電圧印加を防ぎます(この様に定電流動作から定電圧動作へと自動的に移行して負荷を保護することができます)。(図-8)の動作点Cをクロスオーバ・ポイントと呼びます。
出力電圧安定度(定電圧動作時)
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電源変動:
交流入力電圧の±10%(AC90〜110V)の変動に対する、出力電圧の変動値。 -
負荷変動:
負荷状態が0〜100%(無負荷から全負荷)に変わった時の出力電圧の変動値。(ただし、過渡的は含まない)
出力電流安定度(定電流動作時)
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電源変動:
交流入力電圧の±10%(AC90〜110V)の変動に対する、出力電流の変動値。 -
負荷変動:
出力短絡状態(電圧0V)から最大定格出力電圧までの負荷の変動に対する出力電流の変動値。
リップル・ノイズ
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リップル:
出力に重畳している脈流分をリップルといい、周波数成分としては交流入力周波数、及びその整数倍になります。 -
ノイズ:
出力に乗っているランダムな雑音成分をいいます。当社では5Hz〜1MHzまでのリップル及びノイズを合わせてリップル・ノイズといっています。表示方法としてrms(実効値)とp−p(ピークトゥピーク)があります。
《図-9》リップル・ノイズ
過渡応答回復時間(定電圧動作時)
負荷状態の急変時、出力電圧が初期設定値に復帰するまでの応答時間を言います。単に「過渡応答」と言うこともあります。
《図-10》過渡応答回復時間
立上り時間/立下り時間
出力のON/OFF時に、出力電圧もしくは出力電流が、変化量(0Vから設定値)の10%から90%に至るまでの応答時間を「立上り時間」、そして逆に90%から10%に至るまでを「立下り時間」と言います。単に「立上り」、「立下り」と言うこともあります。
《図-11》立上り時間/立下り時間
対接地電圧
ケースと出力端子間は絶縁されています。その耐圧が対接地電圧です。電源を数台直列運転する時に、その最大出力電圧の和が対接地電圧を越える時は感電の恐れもあり危険です。(例えば、出力最大定格500Vで対接地電圧が±500Vの電源は2台の直列運転はできません。)
温度係数
周囲温度1℃の変化により起こる出力の変化量。 例えば、温度係数50ppm/℃の電源では、周囲温度が5℃変わった時、出力電圧×50×10 -6×5となります。