AC機器開発で最後のハードルとなるIEC61000の規格テストをワンストップでスムースに実行
難解かつ難儀
規格に従ったテストに、どんな問題があるのですか。
<松田>本システムはACラインを経由した低周波EMC、具体的にはIECの61000-3と-4で規定されたテストが誰にでも簡単に実行できる自動試験システムです。
IEC61000はAC電源で動くほとんどの機器にマストなコンプライアンステストです。電気電子の世界では比較的よく知られ簡単に行われているハズの測定試験なのですが現実はそうでもない、そこが本ソリューションつまり問題解決の本質というか”問題”部分です。
具体的に言うと、問題のひとつは規格が難解で機器のセッティングや結果の判定に多くの知識とノウハウを必要とすること、もうひとつは試験法自体が煩わしく手間がかかることです。
<矢島>ご承知の通りIEC61000シリーズはレガシーな規格で、制定されてから長い年月が経っています。その間、様々な改訂や追加が行われていて、言うなれば建て増しを繰り返した日本旅館みたいに複雑に入り組んだ、分かりにくい構造をしています。全体は体系化された規格ではあるのですが、それが故に参照規格など関連して、理解しておかなければならない情報も膨大なものがあります。そんなものを製品の設計や製造技術者が個人で1から理解しろということ自体にムリがあると思うのですが、商品化にマストである以上は誰かがやらなければならないわけで、規格の解釈に悩んでいる技術者がたくさんおられます。
で、自分なりの解釈で試験をする段になるわけですが、これがまたけっこう難儀だったりする。具体的な例を挙げると、試験対象機器の電源スイッチを人が24回もオン・オフして確かめなければならなかったり、動作を2時間も監視していなければならなかったりといったテスト項目があるんです。機器のセットアップだけでも大変なのに、測定にもえらく手間がかかる。そうなると測定全体の信頼性も「?」なわけです。
<松田>こうしたIEC61000コンプライアンステストの難解かつ難儀な部分を私たちが引き受けましょう、システムの構想からデータの管理までワンストップでいけるようにしよう、というのが本システムのコンセプトです。具体的には一連のテスト設定や判定が自動化され、エビデンスまで含めてシステムに任せることができます。一例ですが、今お話しした”人がスイッチをオン・オフするテスト”で手順を誤ってしまった場合にも簡単にリトライできるなど、ノウハウに基づいた細かな工夫も随所に織り込みました。
商品開発終盤で迎える必須ハードル
製品設計者としては出来れば避けて通りたいところです。
<矢島>61000シリーズのテストは多くの場合、規格認証に必要な手続きとして量産を目前にした実機を試験所や測定サイトに持ち込んでテストが行われます。実際に私共でもサイト様に多数のシステムを納入させていただいております。ただ、ここで心得ておかなければいけないのは、測定は持ち込んだメーカさん自身の責任で行うと言うことです。実はここにもちょっとした問題があって、持ち込む側としては試験所に持って行けば全部やってもらえると思い込んでいて、テストに際して試験設備の操作や設定が分からなかったり、設定を間違ったりしてしまうことがあります。ですが、対する試験所としてはテストする機器自体については分かりようがありません。その結果、接続や設定の際に相互の考えにすれ違いを生じることがあるからです。
<松田>予め自社でテストしてから持ち込むことも良く行われるのですが、お話ししたように難解難儀な試験ですし、テスト設備も簡易的なもので行わざるを得ないということも多く、本番で問題が発覚ということもありがちです。
規模の大きなメーカさんなどではテスト専任のセクションがあって、設備も揃っていますし規格の知識を持った方もおられるのですが、基本的にそういうセクションは機器の設計には係わらないので、テストの方法や結果が旨くなかった場合のフィードバックなど、設計者と測定者間の理解や思惑が一致せず処理がスムースに進まないといった悩みを抱えていたりします。
これらIEC61000の測定シーンで起こる問題の原因は各々の立場や理解の差による行き違いなわけで、もし、試験作業が誰にでも分かりやすくワンストップで行え、自動的に結果が得られるシステムであれば、齟齬を生じる事は無いはずですよね。
難儀なのは操作だけではない
システムを自分で構築することはできないのでしょうか
<矢島>現状はメーカも試験所もお客様がそれぞれのスタイルでシステムを構築されています。ですが、何れの場合もハイパワーな機器と計測器が混在するシステムになりますので、セットアップも簡単とは言えません。配線の引き回しだけ考えてもノウハウが必要です。例えば、LIN(ライン・インピーダンス・ネットワーク)は入出力の配線によってフリッカや高調波の測定値に差が出ることがあり注意が必要です。
制御ソフトも、多数のコンポーネントを組み合わせとなることから相互の動作タイミングや異常時の振る舞いなどを熟知した上で組む必要があります。
システムアップのやりかたとして、構成機器を複数のメーカ、例えば電源は電源メーカ、測定器は測定器メーカから調達し、ソフトも自分で組むことが考えられますが、それぞれが持つ特有の設定方式ですとか応答のクセなどを把握しないといけません。特に問題になるのが何らかのトラブルに遭遇した場合です。例えば測定値がおかしいと言う場合に、測定器メーカに相談したとしましょう。測定器単体に問題があればメーカは対応できますが、システムが絡んだトラブルですと測定器メーカも対応に限界があります。
<松田>システムアップをどこか一社がまとめることもあるでしょう。実際のところ当社にも他社製の機器と組み合わせたシステムはたくさんあります。この場合はシステム全体について当社が責任を持ってサポートさせていただくわけです。けれども、例えば他社製機器にトラブルが起きたときに当社は窓口となりますが、リペアは当該社さんにお願いするので、対応としてはどうしてもワンテンポ遅くなります。
<矢島>その点、本システムで使われる主要コンポーネントは全て当社自前で揃えました。当社既存品だけでなく制御ソフトや切り換えに要する部分等、本システムのために新たに開発したものも全て自前です。
さらに、システム構想から設置まで一貫しての対応をいたしますので、何か問題が起きても全体がすぐ把握できます。お客様にもトータルで責任が持て、ワンストップの即対応ができることは本システムの大きなアドバンテージだと思っています。