肥大化する電源変動のテストパターン、続々と持ち込まれる試験体に困惑する現場。テストを効率化し評価試験の自動化を目指す。

自動車電装 KIKUSUI mag

HV/PHV/EV車とスマートメータ異分野の課題を同時解決したリップル重畳の新技術

掲載日-2021年8月 ※記事は当時の掲載日をご確認ください。現在の製品情報や価格、技術についての最新情報ではない可能性があります。ご了承ください。

肥大化する電源変動のテストパターン、続々と持ち込まれる試験体に困惑する現場。
テストを効率化し評価試験の自動化を目指す。

ハイブリッド車 vs スマートメータ

同じリップル重畳で二つの異なるソリューション提案ですね

<土畑>ご承知の通り、リップルというのは電源ラインの細かな脈動のことです。本来、電源は直流でも交流でも細かな変動の無いピュアなものであるべきですが、実際には様々な理由によってわずかにリップルを伴い、電源につながれた機器や回路がその影響を受けて誤動作や特性の劣化を引き起こすことがあります。このため、リップルを含んだ電源を故意に作り出して機器に接続し、誤動作や特性劣化が起こらないことをチェックする、というのがリップル重畳試験です。 ちなみに、リップルの大半は電源の整流とスイッチングに起因するものが多数を占め、過去には商用周波数(50/60Hz)とその高調波が主成分でしたが、電源がスイッチング方式やインバータなどに代わったことに伴い近年はリップルの周波数が以前よりもずっと高くなっています。

ハイブリッド車とリップル

初めに、高電圧DC電源用システムの方から伺います。

<土畑>従来、自動車の電気系は12Vや24Vといった低電圧で統一され、電源のイミュニティ(耐性)テストも低電圧系に対するものだけでした。ところが、ハイブリッド車の開発を皮切りにHEV/PHEV,EVなどでの車両に500Vクラスの高電圧電源が持ち込まれました。

必然的に、これまでの低電圧系に加えて高電圧系に対しても電源変動や瞬停など、接続機器のイミュニティテストをするべき、という流れが起こりした。リップル重畳も然りで、500Vクラスの高電圧(DC)にパワートレインのインバータなどに起因するリップル重畳を模したテストのお問い合わせを頂くことが多くなっています。

<吉川>当社では従来から自動車の電源に関するテストをサポートする機器やシステムを多数供給し、現在もインテリジェント・バイポーラ電源<PBZシリーズ>を中心に据えた車載電装品用電源変動試験システムなどを提案しているところです。(別項参照)
ですが、これら従来システムは低圧系を対象としたものであるため、電圧が数10倍も高いハイブリッド車の高電圧系への流用は無理があるんです。

<土畑>一方で当社ではPCRやPATシリーズなど高電圧大出力の電源も取り揃えており、これらでの対応も考えられるのですが、先にご説明したように重畳するリップルの周波数が数キロから数百キロヘルツと高く、従来電源の出力帯域を大きく越えてしまうこともあって、リップル分を出力できません。そこで高電圧上へのリップル重畳を実現する新たな方法の開発に挑んで得た結果がこのシステムです。

DCリップル重畳試験

スマートメータへの技術展開

では、もうひとつのシステム AC電源用リップル重畳試験の提案に至った経緯は

<土畑>AC電源で動く機器のEMC(電磁的両立性)については以前からエミッションとイミュニティ、放射と伝導(高周波 or 低周波)それぞれの面で厳しい規制があります。さらに、規制は対象となる機器がそれぞれ想定されています。言い換えると、これまでに無かった機能を持った機器が普及すると、それを対象とした新たな規制が設けられることになります。

<吉川>その意味で、今回私どもが提案するシステムはスマートメータを主なターゲットにしています。エネルギーの有効利用を目指すスマートグリッドやスマートホームを実現するキーアイテムとしてスマートメータが急速に普及していることはご承知の通りです。

<土畑>で、規制の話に戻りますと、スマートメータを想定した新たな規制が設けられているんです。具体的には2014年にAC電源に対する伝導性イミュニティ試験IEC61000-4-19*1規格が制定されています。

一言で申し上げれば、提案システムはこのIEC61000-4-19規格に対応した試験ができるというものです。キクスイでは従来からACラインの伝導イミュニティ(耐性)の規格対応試験に関して多くの機器やシステムをサポートしています。今回の提案のシステムはその延長線上にあるとも言えるのですが、この規格が他の規格と大きく異なる点は、リップルの重畳試験それも周波数が2kHzから150kHzと周波数の高いリップルの重畳が規定されていることなんです。

そして先の直流システム同様、これまでご提供してきたシステム構成ではこれを実現できません。そこで、商用交流電源にも周波数が高いリップルの重畳を可能にする技術を開発しシステムに盛り込んだのが今回のご提案です。

リップル

<吉川>そういうわけで先に申し上げたハイブリッド車とスマートメータという何のつながりも無い分野のソリューションなんですが、ここで一緒にご紹介させて頂いたのは、それぞれの問題解決を図るうえで求められる技術が同じだったからなんです。

実は同じ技術課題だった

高電圧・大電力上への高速リップル重畳

<土畑>ここまでのお話しでおわかりかと思いますが、求められた技術とは高電圧かつ大電力の電源ライン上に周波数の高い高速リップルを重畳させる技術です。ハイブリッド車とスマートメータというアプリケーションでの違いは、基になる電源が直流か交流かという点だけなんです。周波数の高いリップルを数百ボルトクラスの高電圧上に乗せ、キロワットから10キロワットオーダのハイパワーを供給するのですが、実はこれは簡単ではありません。

電圧が低ければ、或いはゆっくりしたリップルでよければ簡単に実現できるのですが、高電圧かつ高速そしてハイパワーとなると直接的に作り出すことは極めて難しいんです。
難問を突きつけられたわけですが、付加的な方法による解決手段は幾つか考えられます。我々はベースとなる電圧とリップル即ち細かな変動分を別々に生成し、両者を足し合わせる方法を採ることにしました。

システム図

ベースとなる電源には高機能交流安定化電源のPCR-LEシリーズが使えます。PCR-LEはハイパワーでACはもちろん高圧のDCも出力でき、制御ソフトウェアなど周辺のリソースも充実しているからです。
そして、核となるリップル重畳用に新たに「リップル電圧重畳ユニット」とパターンを自在に設定できる専用のアプリケーションソフトウェアを開発しました。これによって、ハイブリッド車とスマートメータ、異なる二つの分野でお客様から求められていた課題を一挙に解決することが出来ました。

<吉川>形のうえではDC用とAC用それぞれ別のご提案なのですが、込められている技術はひとつであって、展開する方向が別というわけでして、技術的な資産を多方面へ展開できたことは良かったと思っています。

なお、リップルの周波数は現在は数キロから数百キロヘルツですが、今後はもっと高くなって行くと考えられます。我々は重畳ユニットの開発に当たってこれらを視野に入れており、一桁以上高い周波数までは既に技術的な見通しが立っています。

  1. IEC 61000-4-19
    初版:2014年 /電磁両立性(EMC)‐第4-19部:試験及び測定技術‐AC電力ポートでの周波数が2kHz〜150kHzにおける伝導性,差動モード妨害及び信号伝達に対するイミュニティ試験

注:差動モード(線間にかかる電圧)で規定される試験のため、試験信号は本来の交流供給電圧に重畳(直列加算)して試験体に印加する必要がある。

執筆者: 菊水電子工業株式会社

計測と電源のエキスパート・カンパニー 菊水電子工業のスタッフによる執筆です。

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