ソーラシステムの高電圧化や
次世代パワーデバイスGaN,SiCの車載応用に合わせ、
モジュール模擬用電源の最高電圧を拡張。
1000V/1500Vを達成し標準品化にも目途。
ソーラシステムの技術トレンド
高電圧電源が必要とされるようになった背景は
高電圧の直流電源はキクスイがソーラシステムなどのエネルギー・ソリューションに注力してきた中で見えてきたニーズです。
太陽光を中心とする自家発電や蓄電は当社ソリューションビジネスのひとつの柱です。ソーラシステムやパワコンそれらに使われる部品類の開発や製造向けに、キクスイでは各種のテストシステムさらにシステムのキーとなる電源や電子負荷などの機器類を供給してきました。その中にあって、直流電源はソーラパネルやモジュールを模擬するアイテムとして欠かせません。
一方で、ソーラシステムでは発電量と共にシステムの低損失化は永遠の課題です。で、様々な角度から低損失化が図られているわけですが、近年の技術トレンドとしてDCラインの高電圧化が挙げられます。モジュール自体も以前よりは高い電圧のものが増えましたし、蓄電する場合の電池スタック電圧なんかも上がってきています。結果、パワーコンディショナへのバス電圧も上昇し1000Vから1200Vクラスへと移行してきています。
そのため、パワーコンディショナやそれに使用するコンデンサなど関連機器や部品メーカさんなどでは従来よりも高い電圧でオフラインでの動作テストをする機会が生じ、パネルを模擬するための直流電源に1000V以上を出力可能なものが必要になってきたという事情があります。
私共としてはトレンドに沿った対応を求められるわけですが、パネル電圧が1000Vを超えることは当初予想しておらず、対応する直流電源はラインナップしていませんでした。
翻って世の中を見渡してみると、1000V超を出力できる高電圧電源はあることはあります。ただ、パワーや応答性などの面でソーラパネルを模擬できるグレードのものは見当たらないんですよね。それで、お客様も困っておられた。弊社ソリューション担当にご相談をいただく機会も増え、私にお鉢が回ってきたというのが正直なところです。
ソリューションの幅を拡げる
既存の標準製品とはどのような関係になるのですか
お話ししたように、高電圧大電力直流電源開発の背景というか狙いとしては、ソーラシステムテストソリューション対応能力拡大の一環なんですが、狭い意味では直流電源の単体標準製品、具体的にはPAT-Tシリーズの新機種追加によるカバーレンジの拡張と捉えていただいて結構です。
直流電源 は私共キクスイの主力商品でもあり、現在では14におよぶシリーズを揃えています。そうした中にあってPAT-Tシリーズは高効率大容量をコンセプトにした電源シリーズで、ベンチトップで4kWと8kW、これらを組み合わせたスマートラックタイプでは、16kWから40kWまで揃えています。出力電圧は20Vから850Vまでをカバーしており、太陽光発電などのエネルギー関連や自動車の電装品関連などのテストシステムに用いられてきた実績のあるシリーズです。実際のところ、これまで提供してきたパワコン評価などのソリューションシステムは、基本的に交流や直流の電源、それに電子負荷などの標準品の組み合わせを基本として構成されており、直流電源にはPAT-Tシリーズを採用しています。
今回開発した電源は1000V/1500Vというソーラパネルの先進的お客様ニーズにお応えするべく、システムソリューションの構成機器のひとつとして開発したカスタムメイド品です。ですが、開発に際してはPAT-Tシリーズの電圧のカバーレンジを高電圧側に拡張するモデルとしてシリーズに加えることも念頭に置かれました。また、ソーラパネル以外でも、最近ではEVやHEVの普及により、充電器、各種モータやDC-DCコンバータ等電力変換に使用されるパワーデバイス(GaN,SiC)の高電圧・大電流対応ニーズにもお応えできると思います。
したがって外形などを含め出力電圧を除く諸々の仕様はPAT-Tシリーズに合わせてあります。そうすることで、既得のソリューション技術やノウハウをそのまま活かすことができ、お客様の新たな要求にも素早くお応えできるからです。
標準品としてシリーズに加える目途もたっていますので、詳しいスペックなども近いうちにお話しできると思います。
継承と挑戦
シリーズの持つ特長を活かす開発ですね
設計としての立場から申し上げれば、PAT-Tシリーズの資産を流用できたことは非常に大きいですね。現行のPAT-Tシリーズの最高電圧は850Vです。普通に考えれば既にかなりな高電圧なわけで、高圧に対しての吟味は成されていました。今回、その電圧を約二倍まで引き上げたわけですが、850Vモデルがあったおかげで回路的には比較的スムースに開発が進みました。これがもし1からの開発だったらそうはいかなかったと思います。
ソーラパネルの模擬ではオーバシュートやリンギングの無いキレイな応答が求められるんですが、PAT-Tシリーズは応答性に優れ、設定急変などの際も素早くキレイに立ち上がってくれるのも助かった点です。
とはいえ、検討課題は幾つもありました。
例えば安全性や規格への適合性などは気を揉んだ部分です。具体的に言うと実装の空間距離や沿面距離など、絶縁や耐圧に関する部分が1000V辺りで大きく変わります。部品や配線間の距離を大きくとらなければならなかったり基盤の各所に切り欠きを設けなければならなかったりするんです。
いっぽうで、筐体サイズパネル配置なんかはPAT-Tとして決まっていたわけで、限られたスペースの中で耐圧をどう確保するかはけっこうな問題でした。実際には機構に係わる部分でもあるので、機構設計や品質保証セクションの力も借りてまとめ上げました。
高電圧技術と設計資産
耐圧試験器で高電圧のノウハウもお持ちです
ちょっと大げさかもしれませんが、1000V超の直流電源というのは新たな挑戦というかひとつの壁でした。ですが、高電圧ということではキクスイは耐圧試験器等を従来から手掛けており、確固とした技術を持ち合わせています。実際手掛けてみなければ分からないような、安全にお使い頂くためのノウハウなんかも多くの蓄積があります。そうした先輩達の技術を土台にして開発できたこともラッキーだったと思っています。
太陽光発電のテストシステムソリューション拡充を意図して始めた開発ですが、標準品即ち汎用的に多用途で使われる電源として仕上げることができました。
私としては1kVというひとつの壁を越えることで、太陽光パネル以外の新たなアプリケーションなどビジネスの拡がりを期待しています。