バッテリの放電試験をおこないたい場合、電子負荷装置を用いるのが順当です。しかし大きな電流での定電流放電をおこなうには、それに応じた入力定格を持った電子負荷装置が必要です。仮に12Vの鉛蓄電池を100Aで放電させようとすると、単純計算でも1.2kWの容量を持った電子負荷装置、当社製品であればPLZ1004Wを2台並列(最大2kW)での対応となります。
しかしこの場合、電子負荷装置だけで合計100万円近い金額になりますので、予算的に厳しいというケースもあるかと思います。
そこで、直流安定化電源の定電流制御を利用してバッテリの放電をおこなう方法をご紹介します。これであれば電子負荷装置を用いるよりも、予算的に安価に実現できるかと思います。ちなみに12V・100Aなら、当社の可変スイッチング電源PWX1500L(0~30V/0~150A/最大1.5kW、本体標準価格¥300,000)と負荷抵抗(ホーロー抵抗を使うなら10万円程度)で対応することができます(写真1)。
写真1: PWXとホーロー抵抗
システム構成
直流安定化電源とバッテリを直列に接続し、更に負荷抵抗を接続します(図1)。
そして適切な負荷抵抗を設定することで定電流放電をおこなうことができます。ここで負荷抵抗の値が低抵抗になると、直流安定化電源に逆電圧が印加されてしまい定電流放電が行えません。逆に高抵抗となると負荷抵抗の消費電力が増大してしまいますので、注意してください。
<負荷抵抗値の設定式>
R = Vbatt / I
Vbatt : バッテリ最大電圧(充電電圧)、I : 放電電流 、R : 負荷抵抗
<負荷抵抗消費電力>
P = I 2 × R [W]
12Vバッテリ(充電電圧14V)を100Aで定電流放電する場合は、
負荷抵抗:R=14V/100A=140mΩ
直流安定化電源の電圧設定 : バッテリ充電電圧14Vより若干高く設定(15V程度)
直流安定化電源の電流設定 : 100A
直流安定化電源の出力オンした後、開閉器をオンすることで定電流放電を開始します。
注意事項
この放電試験システムの注意点は以下の通りです。
(1)回路の遮断が必要
直流電源が出力オフ状態では、直流電源の出力端子に逆電圧が印加され直流電源内部回路に、電流が流れ込みます。(図2)に直流電源内部出力の等価回路を示します。
直流電源のPOWER SWがオフ状態、つまり完全に停止した状態でも、電流が流れ続けます。この状態では、直流電源内部回路を冷却する冷却ファンも停止しています。よって、内部回路部品を冷却することが出来ず、長時間放置されますと破損する恐れがあります。定電流放電が終了した時点で、回路を遮断する開閉器を必ず設けていただき、バッテリを切り離す必要があります。また、逆接続保護ダイオードを接続しても開閉器は必要です。
(2)低Vfの逆接続保護ダイオードの接続を
直流電源が出力オフ状態のとき、直流電源の出力端子に逆電圧が印加され直流電源内部回路に、電流が流れ込みます。流れ込む電流値は、直流電源の出力定格電流値まで流すことが可能ですが、直流電源の出力端子に、低Vfの逆接続保護ダイオードの接続を推奨します。
その目的は、逆電圧を出来る限り低く抑えることで、直流電源出力に接続されているコンデンサの容量・寿命の低下を軽減することです。
(3)バッテリ保護
直流電源の出力端子に直接バッテリを逆接続されますと、トランス、整流ダイオード、コイルなどの部品に、過大電流が流れ破損する可能性があります。バッテリが逆接続される可能性がある場合は、直流電源の出力端子に逆接続保護ダイオードを接続して頂くと共に、ヒューズなどの保護回路を設ける必要があります。ヒューズは、負荷抵抗がショートした時に起きる過電流事故を避ける観点からもその設置をおすすめします。