設計でミスをしたとき、どうしますか?常識的な対応としては、まずは上司に報告。ここで「申し訳ありません」と頭を下げるだけで済めばいいのですが、現実には謝罪だけで終わりません。かならず対策などの「後始末」があります。上司や経験豊富な先輩がいて皆で議論できれば、最善の(関係者の納得を得やすい)方法が選択されることでしょう(まぁ、そうでない例も世にはありますが・・・)。
しかし、その場に自分ひとりしかいなかったら、どうしますか?ひとりではどうしようもない状況なら、観念して上司の判断を仰げる時まで待つのが得策でしょう。でも少しでも考える猶予(時間)と気力があるなら、少しあがいてみてもいいのではと。
ちなみにここでの「あがく」は、失敗を「誤魔化せ」、「逃げろ」という意味ではありません(笑)。ミスを認めた上での「後始末」を自分なりに考えてみるということです。
失敗を骨までしゃぶり尽くすには
失敗から学べと言います。失敗の原因を探り、同じ轍を踏まないようにする。その通りですが、私はさらに「後始末」まで考えることで、失敗を骨までしゃぶり尽くせるんじゃないかと思うのです。ミスの報告会議では、担当者はお沙汰を待つ「罪人」で、ひたすら萎縮するしかない、といった感じになりがちです。でもここでミスを謝罪しつつ、自分から対応策の提案ができるといいですよね。そのためには、失敗を単なる苦い経験だけに終わらせず、そのリカバリーの知恵を自分でも出すところまで踏み込む鍛錬が必要です。失敗が多いと、(上司や先輩の)後始末の知恵を知る機会は増えます。しかしそれは知識(ノウハウ)が増えても、知恵を産む着想が身につくことになりません。
今回のお話は、例によって新卒で入社してまだ2〜3年ごろの経験です。ちなみに、けして褒められた話ではないことを、あらかじめお断りしておきます。結果こそ出たものの、「徹夜までして、自分の失敗を力ずくで帳消しにした武勇伝?なんと昭和でブラックな話!?」と見ることもできます。確かに、事なきを得たのは運に恵まれたような気もしますし、いささか無茶な対応だったかとも思います。でも、「なんとかしなくちゃ」と、夢中で無い知恵を絞った若い自分に嘘はなかった、と信じていますし、仮にこの「あがき」が全て「徒労」に終わっていたとしても、その時の着想や経験は、いずれどこかで活きたのでは、と思っています。
では、時計を30年前に戻してみましょう。受注したOEMスイッチング電源、納品2日前のことです。
時間は午後の7時を少し過ぎたころでした。
何気なく手にした部品表に手が止まる
試験成績表をはじめとした必要書類の準備をしていました。OEM製品がゆえに回路図や部品表も納品物の一部です。午後8時、準備完了。コピーした書類、青焼き図面(若い人わかるかなぁ?)など必要部数の山を眺めていました。そして、何気なく手にした部品表をパラパラとめくっていた時、何か違和感を感じました。
目に入ったのは、「2SC**** Vceo 120V」というトランジスタの仕様。
「あれっ?」。心拍数が上がってゆくのを感じました。
これ耐圧不足?調査、確認、ちょうさ、かくにん・・・。
このトランジスタは、電源スイッチが入ったままで、AC入力が遮断された時のみ働く停電(瞬停)検出回路に使用していました。AC入力遮断時に141V(155Vmax)が約3秒間印加されます。Vceo 120V、間違いなく耐圧オーバーです。すでに上司も先輩も帰宅しています、フロアには自分一人です。相談相手はいません、さぁどうする、俺!
「もしかしたら」を信じて夜の社内を走る
生産のフロアに行って、梱包された初回ロットの25台を眺めました。
明日1日で部品交換できるだろうか?
そもそも明日、正規部品の入手は可能なのか?
このまま納められる方法はないだろうか?
う〜〜ん。
そこで閃いたのは、トランジスタの実力測定。ご存知の通り、部品の仕様には余裕度があります。全く勝算はありませんでしたが「もしかしたら」に賭けてみることにしました。
夜の9時頃から社内を駆け巡り、同じトランジスタのロット違いを集めました。使用したロットと別のロットを3種類、それぞれ10個のトランジスタを揃えました。それからカーブトレーサーを使って特性確認、耐電圧試験器を使って破壊試験。測定データをまとめて報告書の形に整えました。気が付けば外は明るくなっていました。
出社してきた上司に、朝から悪い知らせですと、まずは謝罪。そして考えた対策案を報告しました。
(1)トランジスタを正規部品に交換する。
正規部品の入手状況によってはお客様に納期遅延の連絡をしなければならない。
(2)実力値のデータを元に、このまま使ってもらえないかお客様に相談する。
お客様に報告書を見てもらい、部品の実力を確認、使用可能か否かについての判断を委ねる。
上司曰く、 「よし、(2)でやってみるか」。
そして営業担当からお客様へ連絡し、ミスを報告。午後1時に訪問の予定となりました。
品管部長の一言で決まる
上司の同行はありません(今思えば、それはないよなぁ・・・)。営業担当と二人で出発しました。
10分前に到着。会議室に通されました。OEM製品関連の開発部長、開発課長、品管部長、購買課長が勢揃い。会議室に硬い空気が流れます。謝罪の言葉から始まり、ミス発覚から対応策の検討、報告書提出までの経緯を説明しました。
この案件は、納品前に瑕疵が見つかったこともそうですが、もうひとつの幸運は、問題のトランジスタは、お客様がメーカーだったことでした。品管部長が実力値のデータを見ながらこう言いました。
「このトランジスタ、ディレイティング(余裕度)取りすぎではないのか?」
この一言で会議室の雰囲気が少し和らいだように感じました。会議の結果、このトランジスタの本回路における使用は可能と判断されました。初回ロットは納期通り明日納品できることになりました。ただし、2か月後の第2ロットは正規部品に変更です。議事録を作成し、会議出席者のサインを頂いて帰社しました。
会議室を出るとき、お客様からかけられた言葉を今でも覚えています。
「報告書、徹夜で作ったの?ご苦労様でした。」
やってみてよかったと思いました。
残念ながら社内では誰からも掛けられない言葉でしたが・・・。
今思い返しても、無茶な話で、運が良かっただけのことかもしれません。
でも、こういう「あがき」は結果のみで評価するべきではないと思います。
「あがき」は、脳内の思いがけない神経回路をつくる、いい訓練になるはずです。
上司や先輩のみなさん。過去にいろいろと足掻いてきたことがあると思います。
失敗は恥として自分の中だけに仕舞っておくのは、もったいないです。
後輩たちの失敗に対して、過去に経験した対策方法を説明するだけではなく、
そのときの自分の「あがき」も含めて、後輩たちに伝授してあげてもいいかと思います。


