システム技術課で特注品製作を担当しております板垣と申します。 若い頃は「標準品(カタログ品)」にかかわっていましたが、いつの間にか「特注品」との付き合いの方が長くなりました。このコラムでは、その「特注品」についての四方山…

コラム

特注品仕事のおもしろさを考える

公開日:2017年 11月 この記事の公開日をご確認ください。製品、価格、技術に関する情報は最新の内容ではない可能性があります。

システム技術課で特注品製作を担当しております板垣と申します。
若い頃は「標準品(カタログ品)」にかかわっていましたが、いつの間にか「特注品」との付き合いの方が長くなりました。このコラムでは、その「特注品」についての四方山をお話したいと思います。
さて、みなさんは「特注品」にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

特注品は創作料理

「標準品」は、時間と手間をかけて、設計検証(必要な試験やデータ採り)と試作を積み重ね作り込む、完成度の高いものです。ラインで繰り返し生産されても、品質がブレることなく一定の性能が保証されるものです。
一方、「特注品」は、標準品の設計技術をベースとして、特注品の製作実績で培ったノウハウとお客様の要望(仕様)をミックスして「創っていく」もので、一品料理、しかも創作料理です。

その創作料理をお客様に気に入ってもらえた時はとても嬉しいものですが、ただ難点があります。それは再現性です。考案の元になる基本設計はあるものの、所与の条件(材料、設備、予算、納期など)がいつも同じとは限らないので、実は「追加製作」というのが大変なものでもあります(大変ありがたいことではありますが)。
しかし、その創作料理が追加で注文されたときに、同じ味が出せるかが技術者としての「腕の見せ所」であり、そこが特注品仕事のおもしろさでもあると思うのです。

リピートオーダーがきた

まだ若い頃、同じ味を出し切れなかった時のお話です。
同じ味を出し切れなかったのは、定電圧のバイポーラ電源でした。バイポーラ電源は両極性の電源ですから、電流を供給するだけでなく、吸い込むことも出来ます。電源ですから、仕様としては、使用電圧/電流範囲、周波数応答特性、リップル/変動などの特性、保護機能、操作機能についてお客様と打ち合わせして設計を進めていきます。このあたりまで決まっていれば、ほぼ九割方問題なく進められます。

設計が終わったら、部品を手配して組立配線を行っていきます。組立が終われば慎重に通電をして性能を確認していきます。性能の確認も決まった負荷状態での仕様の確認(負荷が一定なので静特性と言います)から、負荷が変動する状態での特性の確認(動特性や過渡特性といいます)まで行ったので、自信をもってお客様に送り出したことは言うまでもありません。1号機は、無事お客様に届けられ、特に問題なく使用されました。

1号機はお客様に気に入っていただけたようで、数年後、リピートオーダー(追加製作発注)を戴きました。それまで特に問題なく使用されていましたので、2号機も1号機と同じように部品を手配して組配・調整・動作確認を行い、データ上は特に何の問題もなくお客様に届けられました。

2号機で不具合発生

2号機納入から数か月後、お客様から問い合わせが舞い込んできました。ある被試験物に対して1号機で問題なく試験できるが、2号機では電圧が下がってしまうと言うことでした。
電圧が下がるというお客様の情報から、お客様の使用条件が電流の定格範囲を超えているために電圧が下がっていることが推測されるのですが、1号機が下がらないのに2号機が下がるというお客様の指摘です。2号機は、1号機の性能確認で残された動特性の電圧電流波形をもとに確認・比較していたにもかかわらずです。

まずは現象(事実)を確認しないことには話が進みません。計測器を抱えてお客様の実験場にお邪魔し、電圧波形と電流波形を取らせていただきました(被試験物は内緒です)。結果は予想通りでした。お客様の使用条件が電流の定格範囲を超えていました。
定格範囲は超えているのは、数msの時間でした。そうです、もうお分かりになったと思いますが、1号機と2号機の違いは、過電流保護の応答時間の差でした。過電流保護の応答時間は仕様書で規定していない項目でした(記載されることがあっても○○ms以内など大まかな括りで表記されている項目です)。

原因はグレーゾーン

このバイポーラ電源については、過電流保護の回路定数は固定で、無調整の項目でした。誤差増幅器、回路の部品は同じものを使用していても部品の定格の誤差分変わってしまう設計でした。なお、誤解があるといけませんので、一応申し添えますと、過電流保護動作の時定数を仕様化することはできます。ただその場合は、動特性(変化の時間や値)の条件付きが必要です。

杓子定規な見方をすれば、仕様事項の確認漏れということになりますが、実際は仕様書で全てを書き記すというのは、困難(というか原理的に不可能)です。仕様書を作る第一義は「決めることを決める」、「全部は無理だけど、双方が必要と思う項目を文字化、数値化して共有しましょう」です。なので、どんな精緻な仕様書にも、漏れというかグレー(記載必須でない、もしくは記載困難)な領域が必ずあります(最近は「オフホワイト」とも言うらしいが)。仕様書は完全性や網羅性を担保しているのではないのです(これを勘違いをされている方は結構多い)。

こういった仕様外の特性や性能については、対処を間違えると、「普通はこうだろう」や「特に指定がなかった」といった当事間の思惑違いがこじれて、いわば炎上してしまったりします。なので可能な限り、仕様書に記載するように努力をするべきですが、それでも「未記載事項」や「未確認事項」は存在します。なおベテランになって、経験値が上がってくると、要求仕様(製作物)によって、項目として確認しておいた方がいい仕様(落とし穴)が「皮膚感覚」でわかるようになるので、炎上のタネはだいぶ減りますが、それでもゼロにはなりません。

特注品仕事のおもしろさ

幸いなことに、このお客様については、原因(特性の違い)を説明したところ、ご理解をいただけたので、2号機の特性を調整し、1号機と同じ様にさせていただくことで事を収めることができました。また同様な特注品をご発注される際には、過電流の特性についてのデータを提供していただくことを、あわせてお願いしました。

「特注品」は、こういったグレーゾーンが常に付いてまわります。自分と特注品仕事との相性は、このグレーゾーンをどう考えるかでしょう。俗に言う「三遊間ゴロ」を拾うか否かみたない話で、そこは私の仕事じゃない(責任はない)というタイプの人にとっては、かなりストレスフルな仕事でしょう。でもそこを拾ってどうさばくか。それが「腕の見せ所=おもしろさ」になる仕事でもあります。

そして、ゴロが飛び交うのは「現場」です。刑事ドラマなどで「現場百篇」という言葉が登場しますが、それは特注品仕事にも当てはまります。グレーゾーンと現場が好物。そんな人が特注品仕事と好相性なんだろうなと思います。
グレーゾーンが原因の不具合で狼狽えているうちは、まだまだひよっこ。目がランランとしていればそれはベテランになった証でしょう。え?私はどうかって。時々死んだ魚の眼になってますが、気にしないでください(笑)・・・まだまだ精進・精進。

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