こんにちは。キクスイの時間旅行案内人、秋山です。
虚心坦懐(きょしんたんかい)
心になんのわだかまりもなく、気持ちがさっぱりしていること。心にわだかまりがなく、平静に事に望むこと。また、そうしたさま。「虚心」は心に先入観やわだかまりがなく、ありのままを素直に受け入れることのできる心の状態。「坦懐」はわだかまりがなく、さっぱりとした心。平静な心境。出典:新明解四字熟語辞典(三省堂)
プロとして仕事に自信を持つことは大切です。しかしそれは思い込みの一種とも言えます。自信を強力に持ちすぎると、なにか問題が発生したときに自分の仕事(担当部分)には間違いは無い、ゆえに自分が関わらなかった部分に問題があると判断。問題解決のために(良かれと)周りをどんどん巻き込んで散々騒いだ挙句、「すみません・・・私のミスでした」というオチが着く、というような話が、世にはごちゃまんとあります。自信は職業人として必要な心性ですが、諸刃の劔であって、ときに困ったことにもなります・・・。自信は必要だが時に謙虚さも大事。つまり事に臨む際は、できるだけフラットな状態、つまり「虚心坦懐」がいいのではないか、が今回のお題です。
ということで、そんな自信に満ち溢れたお客様との出来事をお話したいと思います。
例によって時計を30年前に戻してみましょう。
日曜日の電話
それは入社して3回目の夏を迎えるころでした。日曜日、自宅で漫画本をぺらぺらとめくっていると、下の部屋で電話のベルが鳴りました。「会社の人から電話だよ」と大きな声で私を呼ぶ母。
出てみると品質管理の部長でした。部長は残務処理のため休日出勤していたのでした。
一か月ほど前に納品したOEM電源が不具合を起こしている。ユーザーから納期が迫っているので至急対応をお願いしたいという連絡が来たとのこと。先にサービス担当者とも協議したが、「初回ロットのOEM電源のため修理できる見込みが薄い。開発担当者が行くのが一番ではないか?」という結論になり、私に白羽の矢が立ったのでした。
明日、九州の大分へ飛んでくれ(自宅は神奈川県川崎市です)。営業担当を空港でスタンバイさせておくから。品管部長はそう告げて電話を切りました。
翌朝、私も話も飛んで、現場へ到着です。
名探偵登場
通された部屋には、納品したOEM電源が収納された立派なラックがありました。ラックの下半分に私が設計したOEM電源、中央にパソコン、上部に計測機器がそれぞれ入っています。不具合の内容は、OEM電源の出力が正常に出る時と、まったく出なくなる時があるとのこと。
「OEM電源以外の部分は、すべて確認して問題はありませんでしたので、OEM電源に不具合があると判断しました。従って、原因究明と対策をお願いするために来ていただきました。よろしくお願いします。」とお客様。非常に丁寧な語り口でしたが、「お前の仕事なんだからな、ちゃんとやれよ」という暗黙のプレッシャーを感じました。さながら難事件に呼ばれた名探偵の気分です。そしてお客様からパソコン操作の手順を説明して頂き、作業開始です。
さぁ、集中のためのルーティン。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、集中だ。一度目を瞑ってからそーっと開く・・・
で、見つけました、原因!
さっそく対策を施して動作確認。問題なし。他にあった2本のラックも問題なし。
その間、なんと30分程度。遥々来たぜ九州!
原因は「ブラブラ物」
原因は、ラックの中央部にあるパソコンのキーボードを置いておくスライド式の棚でした。
棚を前方向いっぱいまで引き出すと、信号線などを束ねた束線(信号線)の一部をスライドレールが挟み込 む状態になっていました。挟まれた信号線の中にはOEM電源に制御信号を送る信号線も含まれています。
その信号線の被覆が破れている部分を見つけました。導体が露出していました。
スライドレールに幾度となく挟まれるうちに被覆が破れてしまったものと思われます。
棚が引き出されて(信号線の)導体がラックと接触すると、信号がコモン 電位に落ちてしまいます。そうなるとOEM電源に制御信号が発生しない、つまり電源の出力が出なくなり ます。なので、スライド式の棚を全部引き出さず、途中で止めておくと信号線とラックはショートしないの で、OEM電源は動作します。それが症状の不規則性となっていたわけです。
失敗学で著名な畑村洋太郎さんが言っておられますが、ケーブル・ワイヤ・パイプなど(畑村先生はこれらを「ブラブラ物」と呼んでいる)は、機構や構造が決定された後に配置空間を与えられるために軽視されやすく、不具合や故障の原因になりやすいと。本件はまさしくこれでした。原因を説明するとお客様は大変恐縮され、上司の方も一緒になって「原因がこちらにあったとは、遠いところ、大変申し訳ありませんでした。」と頭を下げておられました。
仕事ですので、必要とあれば地の果てまで行く覚悟ですが(汗)、正直これは少し辛かったです。こちらに非があったのならいざ知らず、お客様ですから「お気になさらずに」と申し上げるほかありません。これを他山の石にして、自分も気をつけようと思うだけです。
その夜、お客様から夕食のご招待を受けました。
ご褒美(お詫び?)ということなのでしょうか。
とってもおいしいステーキでした。
匂いや味などの感覚と結びついた記憶は強く残るといいます。
おいしいステーキを口にすると(滅多にないですけど・・・)、今でもこの出来事を思い出します。


