こんにちは。キクスイの時間旅行案内人、秋山です。 木を見て森を見ず【きをみてもりをみず】 事物の末梢的部分にこだわりすぎて、本質や全体をとらえられないことのたとえ。 大辞林 第三版より コストダウン、つまり原価低減。今も…

コラム

木を見て森を見ず

公開日:2018年 9月 この記事の公開日をご確認ください。製品、価格、技術に関する情報は最新の内容ではない可能性があります。

こんにちは。キクスイの時間旅行案内人、秋山です。

木を見て森を見ず【きをみてもりをみず】
事物の末梢的部分にこだわりすぎて、本質や全体をとらえられないことのたとえ。

大辞林 第三版より

コストダウン、つまり原価低減。今も昔もビジネス上の大きなテーマです。当社の属する製造業においては、こういったコストダウン活動を「VA」や「VE」などと言います。VAはValue Analysis(価値分析)、VEはValue Engineering(価値工学)の略語で、一般的には「VA=VE」で扱われていますが、厳密には意味が違うようです。また本来的には、VA/VEは顧客価値の最大化(コストバランス)が目的なので、手法として原価低減(マイナス)のみでなく付加価値向上(プラス)もある概念なのですが、わたしたちの会話の中で「VAして」は「つべこべ言わず安くせんかい!」という意味が優勢です(笑)。その辺の細かい話はぜひグーグル先生で調べてみてください。

さて今回のお話は、このVAにまつわる失敗談です。「VA=削減、廃止」という一元的な発想に偏ってしまい、やりすぎてしまったというお話です。
例によって時計を30年前に戻してみます。

世はVA/VE祭り

私が入社したころの日本の電機業界は「ジャパン・アズ・ナンバーワン!」と大変活況で(懐かしいなぁ)、さらにそれを強化すべく、原価低減活動つまりVA/VE活動が盛んにおこなわれていました。まさに祭り状態。コストダウンのためには手段を選ばないとばかりに、ユーザー様が調達先を巻き込んで、あれこれ意見するのは珍しいことではありませんでした。

私が当時担当していたOEM電源についても、コストダウンのご要求が来ました。集合場所はユーザー様の社内会議室。そしてユーザー様の要求事項に対し、OEM電源の回路図、機構図面を照らし合わせながらVA/VE会議が始まりました。

会議内容を一部紹介しましょう。

例えば、プラス12Vの電源について、電流容量を4Aから3Aに落とせれば、現状よりワンランク下の整流ダイオードと電解コンデンサが使用できるので○×円コストダウン。

同様に、各出力の電流容量をマージンギリギリまで小さくして、DC/DCコンバータの総出力を抑えれば、スイッチングトランスのコア材を一回り小さいものへ変更できる。これで○×円コストダウン。

機構面では、当初の構造を変更して、本体側(ユーザー様の装置)へ直接取り付けられるようにすれば放熱効果が期待できるので、OEM電源のヒートシンクの板厚を薄いものに変更できる。更に一体化を進めることで、OEM電源から冷却用FANをなくすことが可能になるはず。

・・・など、色々なご意見があり、そのほとんどを受け入れるような状態で対応することになりました。

突入電流制限回路

そして検討項目の一つに、今回の題材となった突入電流制限回路がありました。

突入電流制限回路について簡単に説明いたします。
OEM電源はコンデンサインプット形全波整流回路を採用しています。電源スイッチをオンにした瞬間、電解コンデンサに充電電流が流れるためにヒューズ溶断や電源スイッチ接点が溶着する恐れがあります。このため、突入電流制限回路を設け、突入電流を制限しています(図1)。回路図中央部分の抵抗器とリレーに注目してください。

図1

(図1)突入電流制限回路

回路動作としては次のようになります。

  • (1)電源スイッチのオン時、抵抗器で突入電流を制限します。
  • (2)ある一定時間経過後、リレー接点がオンします。
  • (3)リレー接点がオンする時、2回目の突入電流が流れます。
    (電解コンデンサが十分に充電されていれば2回目の突入電流は小さい値になります。)

さて、お話を会議室でのVA/VE会議に戻しましょう。

ユーザー様曰く、「OEM電源はミニコンピューター用の組込み電源です。ミニコンピューターは通常、電源スイッチをオンしたら一日稼働することが基本です。何回も電源スイッチを入り切りすることはないので抵抗器の定格電力を小さくしてコストダウンしましょう。」

私はその指示に従い設計を変更しました。

電源が立ち上がらない!

この会議から2か月後、VA/VE対策機として5台のOEM電源を納品しました。
納品後しばらくして、お客様から連絡が入りました。電源スイッチをオンしても出力が立ち上がらないとのこと。なぜ?Help me !

さっそく原因調査のため訪問。原因は突入電流制限回路にある抵抗器の断線でした。この抵抗器が切れてしまうと電解コンデンサの充電ができなくなります。故にDC/DCコンバータが動作できないので出力せずという状態になります。

では、なぜ抵抗器が切れたのか。ミニコンピューターの生産ラインにおいて、電源スイッチはそこそこの頻度でオンオフされていたらしいのです。つまり定格電力不足で破損、抵抗器が切れたのだと判断しました。

先のVA/VE会議では、「ミニコンピューターの電源スイッチ投入は日に一回くらいのもの。 突入電流制限用抵抗器は、その瞬間にしか通電されないので定格電力は小さいもので良い。」と結論付けられていました。しかしこの条件は、製品の完成後(実使用時)が対象であって、調整中には成り立たないものだったのです。そこを見落としてしまったのです。

そこで応急対策として、抵抗器の定格電力をVA/VE会議の前の状態に戻して取り付け直すことになりました。電力形の抵抗器は外形寸法が大きいので変更作業は非常に面倒なものでした。ユーザー様のご意見を何とか実現させようと努力した結果でしたが、検討不足を痛感した案件でした。

VAは視座が大事

冒頭に書きましたが、本来のVAの目的は「顧客価値の最大化(コストバランス)」です。そのために「乾いた雑巾を絞る」ような設計見直し作業をおこなうわけですが、細部に入るほど近視眼的になってしまい、そもそもの設計意図(仕様決定の理由)が見えなくなってしまうことがおきます。その結果として必要なものまで削りバランスを欠いてしまったのです。この失敗はまさにそれでした。

足の小指という話があります。体全体からすると、この小さな指がなくても、たいした影響がないように思えます。実際足の小指で何かをするという場面もほとんどありません。むしろタンスの角にぶつけると痛いので邪魔?と思ったり。しかし凍傷などで足の小指を失った人は、歩くときに真っ直ぐに歩くのが苦手になるといいます。実は足の小指は体のバランスをとるために重要な役目を果たしているのです。

コストダウン要求とは、これから先もなくなることはないでしょう。しかしその際はぜひ見直しの立ち位置(視座、視点)が、私の失敗のように、近視眼的にならないよう十分注意して欲しいなと思います。間違って足の小指を切るようなことがないように。

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