可変型の直流安定化電源(以降は 直流電源 )は、電気・電子機器の開発や製造に不可欠な基本設備として広く使われています。ところが 直流電源 の構造・ふるまいを正しく理解している人は意外と少ないのでは、と思います。
直流電源 は、しばしば「電池」に例えられます。充電で繰り返し利用できる二次電池もありますが、電池には寿命があり、時間が経つに従って電圧が下がってしまいます。電気製品の開発や製造をする際には、そのような特性では不便この上ない。そこで一定の電圧を長時間取り出せる機器として 直流電源 が作られました。しかも電池と違い、可変型であれば設定ツマミで自由に出力電圧を定格範囲内で変えられます。なので、 直流電源 =電池(もしくは 直流電源 ≧電池)だと思われるのは無理もないことかと。
直流電源 の原則は電流を流さない!?
しかし、二者は挙動として決定的に異なる点があります。それは突入電流でのふるまいです。 直流電源 は設定値以上の電流を流さない(流してはいけない)というのが大原則です。当社のカタログ品である 直流電源 は、定電圧定電流自動移行型といって、負荷の増減によって設定電流値をしきい値とした動作モード切り替え(CV→CCまたはCC→CV)を自動でおこないます。これは 直流電源 本体の保護のみならず、被試験物の保護でもあります。ちなみに過電圧保護(OVP)や過電流保護(OCP)という機能を備えた製品もありますが、それらは各動作モードの回路故障を想定した安全装置なので、普通は出力設定電圧(CV値)・出力設定電流(CC値)よりやや高めで設定しておきます。そうしないと各動作モードに入る前に保護機能が先に動作して出力を遮断してしまうことになりますので。
さて、電池はどうなのでしょうか。電池にも仕様として流せる電流値(正確には電気容量)が決められています。ではもし大きな負荷が電池にかかった時、電池はどういった挙動を示すのでしょうか。なんと電池(特に鉛電池)の場合は、短時間(数十ms)であれば数百アンペアの電流を流すことができます。だからもし電池に(保護機能なしで)直付けした負荷が故障し短絡したりすると、一瞬で大電流が流れ加熱や焼損などが起き、思わぬ事故になることがあります。これは電池特性の負の側面でありますが、逆にこれがメリットとして働く負荷があります。それは自動車の電装部品です。スタータモータやランプは始動時に大電流が流れます。しかし、いったん始動してしまえば流れる電流は小さくなります。ここでもしピーク電流値にあわせた 直流電源 を作ると、数十キロワットという容量の装置になってしまうので、実用性からは程遠いかたちになってしまいます。なので電池が非常に便利なのです。
電池を模擬する「ラッシュカレント電源」
ラッシュカレント電源は、バッテリに接続して使用する電装部品(スタータモータやランプなど)の試験のために、突入電流波形を疑似的に再現できるようにした 直流電源 です。当社では30年以上前からラッシュカレント電源を製作しておりますが、一口にラッシュカレント電源と言っても、実態は様々で、かつ突入電流波形のパターンには顧客毎のノウハウがあります。なのでここでは、具体的な波形写真や細かい数値などをお見せすることができませんが(ごめんなさい・・・)、ラッシュカレント電源を製作する上でのポイントや苦労を、ざっくりではありますが書きしるしたいと思いますので、ご参考になれば幸いです。

摺り合わせの妙技
まず、ラッシュカレント電源が実現しなければならない「突入電流波形」には標準形がありません(おおざっぱに「こんな感じ(下図参照)」というのはありますが)。顧客の製品と採用するバッテリの組み合わせの数だけ要求仕様があります。なので製作の際は、電流立上り、ピーク、下降時間、ラッシュ電流の電圧降下など仕様決めのポイントが多数あるため、実際のバッテリや試料を借用して合わせこみを行う必要があります。
実際、合わせこんでユーザにいざ電源を持ち込むと、製作(調整)時と波形が違うということは茶飯事で、顧客の実測用のケーブルを借用し再度調整するケースもあります。さらに自動化ラインに持ち込むと、そこには様々な治具があったりして、その接触抵抗で希望する波形にならず、現地でギリギリまで調整を行っている(汗)という苦労も多々あります。

回路方式について
ラッシュカレント電源の回路方式として、かつては、シリーズドロッパ電源が大多数でしたが、最近は、コスト的に優位な大容量のスイッチング電源を使用する顧客もいます。
シリーズドロッパ電源の回路特性としては、電流制御になるため、一次側(平滑部)の電解コンデンサの容量を増やし、またパワートランジスタも電流に合わせて増やしておけば、二次側(出力)の電解コンデンサで立上り波形を作り、不足する電流分を一次側(平滑コンデンサ)からピークを抑えつつ補充するという、比較的無理のない動作が実現出来ます。
一方、スイッチング電源の場合は、電力制御のため、スイッチング自体の周波数が高くあっても、制御系としての応答が遅く、また(突入の)不足電流分を供給する手段がないため、出力の電解コンデンサにたまった電荷を放出したら電圧が落ちてしまいます。さらに二次側(出力)の電解コンデンサにたまった電荷は、一次側(電源側)の供給が遅いと出力制御に関係なく負荷のインピーダンスで電流ピークを流してしまいますので、ピーク電流値の大きい単発パルス電流になり、ピーク後のなだらかな立下り波形をつくることができません。
また、電流のピークや立下り波形を作るために、制限抵抗を挿入する等をしますが、最近は内部抵抗可変機能を採用することもあります。しかし内部抵抗可変機能が働くのは、ピーク値以降の制限領域からで、立下り部分での改善としての対応になります。スイッチング電源で理想的な波形を再現させるには、スイッチング電源に直列に電子負荷挿入して制御すると出来るのかもしれませんが、コストアップは、避けられません。それならば、シリーズドロッパ電源にした方が安上がりだと思われます。
絶滅危惧種?
ひとつ懸念点として、シリーズドロッパ電源は、ご存知のように需要が減っており、当社でも縮小傾向にあります。ラッシュカレント電源は、元々特注対応ではありますが、ベースとなる標準品(シリーズドロッパ電源)がないということは、一から作ることになり、それがそのままコストに跳ね返ることになります。またシリーズドロッパ電源を作る上で必要な素子(サイリスタやパワートランジスタ)も製造中止になるものが増え(代替品がない)、今後入手に難渋することが多くなりそうです。それも結果としてコストアップにつながります。 確かに、スイッチング電源は年々性能が向上し、価格的にも優位にありますが、すべての面においてシリーズドロッパ電源を凌駕するというわけではありません。応答性や低ノイズ性においては、いまだスイッチング電源より優れた特性を持った回路方式です。
今後も電池を使用する機器の評価には、こういった「ラッシュカレント電源」が必要であると思いますので、なんとか技術を絶やさず、次代に継承できればと思います。ということで、「ラッシュカレント電源」をご検討の際は、ぜひ、ぜひ当社にお声がけいただければ嬉しく思います(笑)。よろしくお願い申し上げます。


