ソリューション開発の後藤です。1年ぶりの投稿となります。今回のお話はEV急速充電についてです。当社では、2010年にEV急速充電器「Milla-Eシリーズ」をリリース。残念ながら同製品は生産終了となりましたが、その技術ノウハウは継承されています。そして自動車関連のお客様のアドバイスをいただきながら、EV急速充電試験システムの中核ユニットとして日々進化を続けています。
そこでこのエンジニアコラムをお借りして、当社のEV急速充電システムの変遷と最新状況を簡単にご紹介させて頂きたいと思います。
キクスイのEV急速充電システム
当社のEV急速充電関連製品は、下記の通りです。
- EV急速充電器/Milla-E50、Milla-E40、Milla-E20(生産中止品)
- 可搬型急速充電器/特注製品
- ECE.R10用EV充電システム/特注製品
- EVSEシミュレータ/特注製品
- 充電コントローラ
各システムについて
1. EV急速充電器/Milla-E50、Milla-E40、Milla-E20(生産中止品)
Milla-E(ミライー)シリーズは、2010年に販売を開始したCHAdeMO専用の据え置き型EV用急速充電器です。出力は50kW、40kW、20kWの3タイプあり、一般街頭に設置する一体型としては当時業界最小のEV急速充電器でした(図1)。
(図1)Milla-E三兄弟
この製品があったことで「全日本電気自動車(JEVRA)グランプリ」に参画したり、2012年の米国コロラド州で行われた「パイクスEVチャレンジ」のオフィシャルパートナーになったりと、計測器製造のみでは出会うことのない世界を見せてくれました。既に連載は終了しておりますが、当社ホームページで直流安定化電源について解説したマンガ「俺の後輩が可愛いのはたぶん何かの間違いだ」を公開するなど、今考えるとこの頃から広告宣伝に関する路線が変わったような気もします。
Milla-Eシリーズは生産中止となりましたが、現在でも各地に設置されており、元気に稼働中です。
2. 可搬型急速充電器(特注製品)
本体を小型化しキャスターを装備。キャスターで移動できる場所であればどこでも充電を可能にした製品です(図2)。ちなみに、ワンボックスに可搬型急速充電器と発電機を載せれば、移動式のEV急速充電器にもなります。
(図2)屋外可搬型急速充電器のプロトタイプ
スタンドアローンで充電が可能ですが、アプリケーションソフトウェア(別売)にて、PCによる制御も可能です。
出力は19.2kW(400V/48A)と、数字だけ見ると今ひとつですが、20kW以上の出力にすると各地方自治体や各市町村が定める火災予防条例(急速充電器は20kW~50kWの場合は、強固な床に固定が必要)に抵触する恐れがあります。ちなみに当社の本社所在地である横浜市では、「20kW以上でも問題ない」との回答を頂きましたので、容量が足りない場合は並列運転にて不足分を補う事が可能です。
充電方式は標準のCHAdeMO充電の他、COMBO充電とGB/T充電をオプションで準備していますが、複数の充電方式に対応するには筐体サイズを大きくする必要があります。現在、筐体サイズを変えないで対応可能なオプションを開発中です。使用環境としては電波暗室用と屋外用があります。電波暗室用は既に納品実績もありますので、条件が合えば供給は可能です。屋外用は防塵対策等の要求レベルにもよりますが、現行機の更なる改良が必要ですので、お打合せが必要になります。
客観的に見ると「それなりの重量で取り回しに若干難あり」、「据え置き型に比べるとかなり高額」、「納期もかかる」と、良い点はなさそうですが、それでも引き合いやデモ依頼がある製品です。「設置場所に行かなくともその場で充電ができる」はかなり魅力の様です。ちなみに、「全日本電気自動車グランプリ」に参加していた時に、Milla-E50にキャスターを付けて移動可能にした可搬型の初号機がありましたが、その後、充電器を横置きにしてワンボックス等で運搬を可能にした製品も製作しました(図3)。
(図3)横置き型Milla-E50
可搬型EV急速充電器に興味のある方は、以下のソリューションノートも是非ご覧ください。
https://kikusui.co.jp/ev-test-construction-equipment-operation-solution/
3. ECE.R10用EV充電システム(特注製品)
車両や車両への取り付けが意図されたデバイスのEMCに関する規則「ECE Regulation No.10」で要求されている、REESS充電モード時の各種評価を行う際に使用するEV急速充電を行うシステムです(図4)。
(図4)ECE.R10用EV充電システム
充電方式に対応したアプリケーションソフトウェアと本システム用の充電コネクタを別途ご購入して頂く事で、「CHAdeMO充電」、「Combo充電」、「GB/T充電」が可能です。また当社の交流電源PCR-LEシリーズがあれば「普通充電」も可能です。(普通充電に付きましては電流容量や相数によって構成品が変わります。)
なおECE.R10は、現行の05バージョンが2019年9月1より06バージョンに変更となります。この変更により、カテゴリーL6及びL7(超小型モビリティ等)やカテゴリーT、R、S(農耕用車両(トラクター等))も試験対象車両になります。
通常はDC600V/200A の電源を構成していますが、CHAdeMOの350kW(DC1000V/350A)対応の電源を選択することも可能です(350kW電源については別途ご相談ください)。また、日本と中国の業界団体が、次世代規格を統一することで合意し、2020年をめどに10分以下で充電できる機器(500kW)の共同開発を目指すという発表もありましたので、導入の際には慎重にご判断願います。(ちなみに中国は1500V/600A(900kVA)を目指しているとの事です。)
価格帯としては、充電方式や構成品で変わりますが当社製品の最高位に位置するシステムです。そのような高額なシステムですが、おかげ様で受注、引き合い共に好調です。このシステムがここまで進化できたのは各自動車メーカ様のご支援があってこそです。お世話になった皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。
ECE.R10用EV充電システムに興味のある方は以下のソリューションノートも是非ご覧ください。
https://kikusui.co.jp/ev-phv-test-solution/
4. EVSEシミュレータ(特注製品)
電気自動車用急速充電スタンド標準仕様書(CHAdeMO)で規定されているEV用急速充電器を模擬できる製品です(図5)。模擬の範囲は構成品によって異なりますがフルセットであれば、CHAdeMO規格で規定されている時間を変えること等が可能です。(機能の詳細に付きましては別途ご相談願います。)
上記はCHAdeMO充電の説明のみですが、GB/T充電も対応が可能です。COMBO充電に付きましては開発中です。(充電方式は選択式です。複数の充電方式を選択することも可能です。)
(図5)EVSEシミュレータのイメージ
5. 充電コントローラ
可搬型と似ていますが、こちらの製品は制御部と電源部を別にし、後からでもお客様が電源容量の変更をできる製品となっています(図6)。
(図6)充電コントローラ
電源の容量によっては、可搬型急速充電器の欄で説明しましたが、火災予防条例の抵触する可能性がありますので、その点はご注意願います。
ソリューションは日々進化しています
今回ご紹介しましたEV急速充電システムは、おかげ様で数多くの受注と引き合いを頂いており、ソリューション製品としてなかなか好調な分野となっております。ただ、このEV急速充電システム関連製品はユーザー様のカスタム要求も多いため、「仕様・機能」、「金額」、「納期」の各々について、ご要求に添えないケースがございます。
それでも冒頭で記しましたように、EV急速充電システムは日々(亀の歩みながらも・・・)進化を遂げていることは確かです。過去諸条件の折り合いが付かずに製作を断念されていた場合でも、「当時の技術力では無理でしたが、今なら対応可能です。」となっている可能性もございます。お客様において現在でもお困り事が解決していない状況がありましたら、ぜひ、お近くの当社営業所または販売代理店の方へもう一度お問い合わせ下さい。
最後になりましたが、充電器ではありませんが、EVのバッテリーを模擬するEVシミュレータも用意しております。このシステムでは、バッテリーの充放電電圧特性をSOC(State of Charge)ごとに作成することで、実際のバッテリーのように動作させることが可能です。こちらもよろしくお願い致します。