第一話 あとがき
第1〜3話のテーマは、耐電圧試験器になります。耐電圧試験器は、電気製品の電気的な安全性を検査する上で、欠かせない重要な試験器です。しかしながら、この製品はエンジニアにとって、けしてポピュラーなものではないのも事実。人によっては使うどころか、見たこともないなんてこともありうる代物です。後々詳しく説明をしますが、この試験器の使用は製造者に対する法定義務(安全規格の検査)なので、世の中に商品として出回る電気製品を作る場合は、避けて通れないものです。しかし悪く言えば「義務だから(仕方なく)使う機械」という側面もあり、重要な役目がある割には、評価されにくい「ちょっと可哀想な機械」と言えなくもないですね・・・なので、オシロスコープなどの花形計測器と違って、個人的な嗜好で「耐電圧試験器が大好き」というエンジニアは、まずいないでしょうねぇ(あっ、キクスイの開発者は例外かも)。
そのような側面のある試験器なので、品質保証担当以外のエンジニアにとっては「盲点的な計測器」であると思われ、ぜひ「Returns」のトップバッターで扱いたいと考えました。この試験器の使用にあたっては、適用する安全規格の知識が不可欠で、しかもその解釈にノウハウがあったりして(度々規格改訂があるのでキャッチアップも大変)、相当にマニアックな世界でもあります。だからといって、この分野について「生兵法は怪我の元。だから専門家に丸投げしちゃえ」・・・はよろしくなく、せめて試験の背景(感電の危険性・安全規格)や試験器の基本知識・役目などはぜひ知って欲しい、いや知っておくべきと考えるわけです。
第1話は、米国で実際に起きた痛ましい感電事故から始まりました。私自身はこの報道を2018年に知り、「スマホで感電死するのか?」とちょっと驚いてしまいました。詳報によると浴室に引き込んだテーブルタップのケーブル(被覆損傷)が原因だったようで、USB(5V)ではなかったようですが、それでも感電事故は、身近で起こりうるものであることを痛感しました。私も若かりしころ(駆け出しの営業マン時代)、客先で交流電源の設置工事を手伝わされる羽目になり、配電盤のブレーカーを落とし忘れて、200V電源の接続端子で盛大な火花を飛ばしたことがありました。幸い感電は起こしませんでしたが、電撃のショックでしばらく指が痺れていた記憶があります。電気って怖いと思った瞬間でした。しかし電気の怖さ(感電)について、怖いイメージはあっても「具体的に何がどう危ないのか」を知らない人が結構多いのではないでしょうか。ということで、スマホ事故の話題から、宇都木は感電の危険性を解説します。ただ怖がって萎縮しても仕方がないので、「正しく怖がれ」ということですね。
そして第2話以降では、そういった危険からユーザを守る「安全性」や、電気製品に担保する試験器「耐電圧試験器」がどういったものなのかを、鬼と呼ばれる品質保証課長が解説していきます。