第四話 あとがき
中編4〜6話のテーマは、電子負荷装置(以下、電子負荷と略します)です。詳細は次話以降に説明しますが、その機能を簡単に言うと「電気を消費すること」です。そして前述の耐電圧試験器と同様に、けしてポピュラーとは言えない計測器のひとつではないかと思います。なぜポピュラーでないのかというと、エレクトロニクス関連のエンジニアの多くは、電気を利用する回路を作るのが仕事なので、電子負荷を使う機会がほとんどないのです。電気・電子系であっても電子負荷を日常的に仕事で使う技術者は、実はかなり少数派で、ましてや一般の人においては、その存在すら知られていないでしょう。ちなみに、街の電気屋さんには売っていませんし、私も菊水電子に入社するまで知りませんでした。
現在では電子負荷の用途は昔と比べて広がっていますが、使われる場所は依然として限定的です。そのひとつが直流電源の開発や製造です。直流電源は電気製品の心臓部にあたるものですが、そのブレークスルーが起きたのは、1960年代に米国航空宇宙局(NASA)で研究・開発された「スイッチング電源」です。ロケットに搭載する電子機器の課題解決(小型軽量化、効率化)のために考案された回路方式であり(前作「直流安定化電源」入門編もご参照ください)、1970年代以降、一般向けの通信機器や家電製品に広く採用されるようになりました。そしてその(スイッチング電源)需要に応えるために、組込み用電源を開発・製造するメーカーが興隆し、スイッチング電源の出力試験をするために電子負荷が多く利用されるようになりました。そういった背景から、電子負荷の需要(生産台数や金額)は増えましたが、それでも1990年代まで、主なユーザーが電源メーカーであることに、変わりはありませんでした。しかしその後に大きな変化が訪れます。それは二次電池(充電式バッテリー)の技術革新です。
1980年代後半から始まった移動体通信(携帯電話)、ノート型パソコンやポータブルオーディオ等の需要拡大に応えるために、ニッカド等の旧来型二次電池に代わるものとして、小型大容量で高性能な「ニッケル水素電池」や「リチウムイオン電池」が開発され、積極的に採用されるようになりました。そして、そういった新型二次電池の性能試験(放電特性の分析)をおこなう計測器として必須となったのが、電子負荷です。二次電池の試験においては、様々な相手(電池を消費する回路=負荷)を想定する必要がありますが、世の中の全ての相手(現物)を集めて確認することは不可能です。そこで様々な負荷を模擬(シミュレーション)できる計測器として電子負荷が有用だということです。なおスイッチング電源の試験需要との違いとして、二次電池においては、電池メーカーのみだけでなく、セットメーカー(完成品メーカー)での試験需要も多く、それも電子負荷がより広く使われるようになった契機になったのではないかと思います。
さて4話では、みなみが「電気を自在に消費してくれる機械はないのか・・・?」とつぶやいています。読者である電気のプロの皆さんから、「え?そんなことも知らないのか」「普通知ってるだろ」というツッコミがありそうですが・・・いやいや、電子負荷って、未だ本当に認知度は低いのです。マンガの中で尻尾を振り回して電池を消費させる場面があります。「そんな非効率な方法・・・」と思われるかもしれせんが、しかしこれは現実にある話なのです。最先端イメージのあるEV車でも、搭載バッテリーを早く放電させるために、テストコースを延々走る、ヘッドライト点灯、ワイパー稼働で一晩放置する・・・などといった涙ぐましい苦労が現場にはあったりします。なので、このマンガを通じて、少しでも多くの人に電子負荷の有用性を知っていただければと考えているわけです。



