第二話 あとがき
第2話は、試験器の知識といった実践的な内容ではなく、その前提にある枠組み(品質保証というお仕事)の話です。メーカー(製造業)はある程度の規模になってくると、生産性、効率性を高めるために、業務の違いによる組織化(いわゆる「分業」)をするのが一般的です。たとえば営業部、開発部、生産部、総務部、といった感じですね。一気通貫で(初めから終わりまで全部)なんでも出来るマルチな人が大勢いれば、分業は不要なのかもしれませんが(そういう組織論もある)、しかし現実は誰にも得手不得手や意向(やりたいこと)があります。なので、スーパーマンではない普通の人を雇用して会社を円滑に運営しようとするなら、やはり仕事内容を限定して(範囲を決めて)、個々に担当していただく形態(=分業)が適しているのだろうと思います。
そして今話登場したのは、品質保証部の上地(かみじ)課長です。会社の業務は大きく「ライン(直接業務)」と「スタッフ(間接業務)」に分かれますが、品質保証部はスタッフとして、組織全体を広く見て仕事を遂行する部門です。品質保証の仕事は、読んで字の通り「製品に間違いがないこと(=品質)を約束し、確かであると責任を持つこと(=保証)」です。開発や生産などのラインでは、品質が重要とわかっていても、どちらかというと新技術や業務改善などの「深掘り」に関心が高く(もちろん悪いことではないのですが)、ともすると品質との整合(品質への影響)がおざなりになるようなことも・・・まぁ、なくはない。なので品質保証の担当者は、様々な業務ルールや体制・環境を整備したり、また日々の業務状況をウォッチし、ライン部門が「道を外さないように導くこと」が主要な役割です。
品質保証はとても重要な部門ではあるのですが、業務がそういった性質になるため、他部門から誤解されやすいというか「怖いイメージ」になりやすいです。または、指導に厳しい先生のような存在に見えて、つい「うっせえなぁ」という反抗的な感情をライン側は持ちがちです。思い出話ですが、はるか昔の入社したての頃、顧客クレーム対応のために(キクスイの)品質保証部長と打ち合わせをすることになりましたが、その時私があまりに何も知らないので、あきれられてコテンパンにされました。私的には新人だから仕方ないと思うのですが、昭和の頑固親父にそんな言い訳は通じません・・・。今だったら、ほぼパワハラ認定でしょうねぇ。「品証って怖いんだ」というトラウマ級の経験になりましたが、その後部長が逆に可愛がってくれるようになり(あまりにアホなんで鍛えてやろうと思ってくれたのでしょう)、いろいろな品質の基本知識を教えてくれました。一見強面な感じの人でしたが、よくよく話してみると、仕事に対する姿勢(真剣さ)が厳しい印象になっているんだなと、思ったものでした。上地課長もそういう人なんです・・・たぶん。しかし一方で「ぶっ壊す」とか物騒なことも言うので油断はなりません。それと「上限電流値」でもキレてましたが、これは次話のキーワードですので覚えておいてください。
余談ですが、今作ではコーヒーの話をサブテーマにしています。これは今後もちょいちょい顔をだします。仕事中に趣味の話なんてと、いぶかしく思われるかもしれませんが、現実こういった場面は本当にあったりします。令和の時代、仕事とプライベートの区分の考え方は様々で正解がないのですが、プライベートなことが(意図せず)仕事に活きることもあるよ、という参考にしてもらえれば嬉しく思います。