第五話 あとがき
当社のサポート窓口に、こういったお問い合わせが時々入ります。「おたくの電源使ってるんだけど、どうやっても出力ができない。これって故障ですよね?」というものです。そこで詳細を伺ってみたところ「・・・あ、それは無理ですね」とお答えするケースがあります。つまり電子負荷を直流電源と勘違いされていたのです。たしかに電子負荷にも電圧・電流表示、調整つまみ、赤黒(もしくは赤白)キャップが付いた端子があり、一見似てなくもない・・・。前回のコラムでも触れましたが、電子負荷の認知度は低いので(その名称すら知らない方も少なくない)、無理からぬことかもしれません。特に5話に登場する、当社の旧製品PLZ72Wという電子負荷のように外観が細長い製品であると、佇まいがスイッチング型の直流電源のような印象なので、余計紛らわしいかもしれません。
少し話が脱線しますが、人間には認知バイアスという「思考のクセ」があります。品名表示や製品パネルの機能表示をちゃんと見れば、「あれ?なんか直流電源じゃないかも?」と気づくと思うのですが、見えている(はずの)ものが、見えていないようなことが時々起きます。そんなバカなとお思いでしょうが、私は結構あります(笑)。いわゆる思い込みですね。こういった勘違いが笑い話で済めばいいのですが、事故等につながる可能性も十分あります。仕様が不案内な機器は「だろう」ではなく、面倒でも調べる、確認するという習慣が大事かなと思います。しかし専門性が強い製品や特に古い製品などの仕様調査は、ネット利用が進んだ今でも(今後も)、結構大変かもしれません。なぜならネット上に存在しない(一部顧客限定公開、もしくは古すぎてドキュメントがデジタル化されていない)可能性があるからです。そのうちAIで何でも対応できるようになるという喧伝(妄想?)がありますが、データ化されていない情報は彼らの知識外なので、対処の仕様がないでしょう。なので付属する取扱説明書(仕様書)も製品の構成部品として、大事に扱っていただければと思う次第です。以上メーカーからの切なるお願いでした。
話を戻しましょう。電子負荷というものがあります。電気を吸い込んで消費する機器です・・・。そのまま素直に理解できそうな説明ではありますが、ちょっと突っ込んで考えると疑問が湧いてきます。消費した電気はどうなるの?と。実はこれ、ド文系出身の私が初めて電子負荷を知り、説明された時に思ったことで、本当にわからなかったのです。まさか機械の中で小さなブラックホールが生成されて吸い込んでしまう・・・というSFまがいのことはないにしても(実際できたらノーベル賞ものでしょうけどね)、いったいどこに行ってしまうのだろうと。その答えは6話での説明になりますが、最初にその原理応用を考えついた技術者は大したものだなと思うのです。「コロンブスの卵」の逸話がありますが、まさにそんな感じでしょう。説明されれば「そんなことか」となるのですが、最初に着目する人になれたかと言われると、う〜ん・・・ではないでしょうか。
少し前にテレビドラマに登場し話題になった「ファーストペンギン」という言葉があります。ペンギンの群れの中から、魚を求めて、天敵がいるかもしれない海へ最初に飛びこむ1羽のペンギンを転じて、最初の一歩を踏み出すチャレンジャーをそう例えるそうです。電子負荷がコロンブスの卵的な着想で作られた経緯は、まさにそんな感じかもしれないと想像するのです。そして最後のコーヒーのトピックに、なにやら猫の絵が描かれた謎の御進物が登場します。コーヒーに詳しい方ならすぐにピンと来るかもしれませんが、私は初めて知った時「なぜそんなものを飲む気になったのか?」と驚愕しました。このコーヒーの由来にも「ファーストペンギン」がいたわけで、電子負荷の誕生背景に重ねてみました・・・。ちょっと伝わりにくいですかね(笑)。