第六話 あとがき
第6話は、電子負荷による電池放電の解説です。漫画の中では、宇都木くんがサラサラっと手慣れた感じでデモをしていますが、現実はなかなかこうスムーズにはいかないかもしれません。まず電池の特性(仕様)の理解がないと、場合によっては電池を壊してしまったり、最悪は破裂や発火などの怖い事故もおこしかねません。というのは、電池の起電が化学反応によるものなので、電池を電気製品に応用する際には、電子工学だけでなく、化学の知識も不可欠です。また、電池の扱いについて注意すべき理由は、直流電源と同じように「(電気)エネルギーそのもの」が出てくる点です。電子部品は受動的に動くものが多く、電源がない状況で(受動的な電子部品で構成される)電気製品自身が何か悪さをするようなことは、ほぼないでしょう(廃棄時に素材が含む有害物質等による汚染はあるかもしれないけど)。電気がなければ、どんなに便利な電気製品も無用なガラクタです。
近年、カバンの中に入れたスマホやモバイルバッテリーの発火、ゴミとして出された電気製品のバッテリーが処分場で発火するといった事故を見聞きします。確かに電池も電子デバイスの一種ですが、実態としては「エネルギーそのもの」なんだと思わされます(リチウムは物質自体も結構危険ですけどね)。前作「直流安定化電源編」でも触れましたが、電子工学のエンジニアの多くは電気を利用するしくみ(回路)を作ることを仕事としています。なので電源回路や装置の専門家は意外と少なく、その知見についても、エンジニアなら常識である・・・ではないのです。それは電池についても同様で、そのふるまいや特性の熟知を要するデバイスではないでしょうか。実験シーンにおいて、電池の試験における注意事項を豆知識として記述していますが、かなりざっくりと簡略化していますので、もし実務等で電池を扱う際には、ぜひ専門書の参照や詳しい人に相談するなどをしていただければと思う次第です。
電池はこれくらいにして、お話を電子負荷に戻しましょう。6話で登場する当社の電子負荷はPLZ-5Wシリーズという製品ですが、この「5」は初代製品の上市から「5世代目」の製品を意味します。したがって、5世代という長い時間の中でいただいた様々なお客様からのご要求が練り込まれており、高性能・高機能な製品になっています。しかし、それは裏を返すと、使いこなすには少々勉強が必要な製品とも言えます。実は、実験シーンにおいて操作の詳細を描く予定でしたが、ページ数の都合上、泣く泣くカットした経緯があります。5話では、昔の電子負荷(PLZ72W)を登場させました(これは2=「2世代目」ですね)。「昔の機械はパネルの文字から機能が推測できる」と、宇都木くんが説明していましたが、昔の電子計測器は皆そんな感じでした。機能はそこそこだけど、わかりやすい印象があると思います。これは、最新の製品が難しくてわかりにくいと批判したいわけではなく、高機能化と使いやすさのトレードオフは、あらゆる電子機器の宿命であり、ある程度仕方がないことと思います。
そして、電子負荷の最大の謎(?)である「電子負荷に入力された電気はどうなってしまうのか?」という問いの答は「熱」です。その仕組みは直流電源(ドロッパ方式)の電流制御回路を応用したもの。ドロッパ方式の直流電源でも「排熱」問題にふれましたが、その問題部分(回路)を応用した機械が電子負荷です。まさに「無駄の効用」です。しかし「排熱を冷房で冷やすってどうなのよ?」といった声があるのも事実。そこで考案されたのが「回生型電子負荷」です。その仕組みは、電子負荷に入力された電気(直流)を電力変換器(インバータ)で交流にして、配電系に戻すものです。実に素晴らしい発想なのですが難点もあります。電池などのエネルギー源に接続された電子負荷は「発電機」として扱われ、電力を構内に回生するだけでも、電力会社との連系協議や申請、対応設備(逆潮流防止リレーなど)が必要になります。つまり「手軽」ではないのです。なので当面、小容量電子負荷は排熱型、大容量電子負荷は回生型、といった棲み分けが続くかと予想しますが、とてつもないブレークスルーの到来がないとは言えません。電気をブラックホールに転送するようなやつが・・・ないか(笑)